分析を始めたサージタウス・マギアは、場の霊脈が大きく掻き乱されていることを検知する。
メラガイアーが放たれる直前、らぐっちょが放り投げた機械装置がピンク色の魔法陣を地に描いていた。
霊脈魔法陣。
本来は対象の足元に展開し、魔術的防御力を掻き乱し威力を高める代物であるが、らぐっちょは呪文自体に作用するようカスタマイズしたのだ。
「さぁて…創意工夫のなんたるか、教えてしんぜようですなーーーっ!」
ヒッサァに啖呵を切って出てきた手前、無様は晒せない。
不意な襲撃を受けた黄金鶏神社の折とは違い、今は準備万端なのである。
らぐっちょは羽毛に隠れ出番を待つ各種ガジェットに手を伸ばし、不敵に微笑む。
「………ふぅむ。磁界シールドにプラズマリムーバーも効果無し…まぁ、それくらい対策はしてあるでしょうな」
これらもまた、本来は自分ないしはパーティメンバーに使うアイテムであるが、らぐっちょによる魔改造を受けたそれらは一味違う。
ダイヤルにて出力を上限突破し敵にぶつければ、砂鉄を関節部に引き寄せ動作不良を促したり、高速で飛び回る電子と原子を大量にぶつけて回路をショートさせるなど、マシン系モンスターに絶大な嫌がらせ効果を発揮する。
しかしながら蒼き陣も閃光も、此度の相手には効果は無いようだ。
しかし、次に何をしてくるのか奇々怪々な様を見せつけることで、敵が不確定要素の多さから次の一手を演算できぬうちに、四方八方からメラミを放ち続けてサージタウス・マギアに防戦を強いることには成功した。
初歩の呪文とはいえ、これほど雨あられと撃ち放とうとも本来呪文戦を得意とせぬらぐっちょの魔力が切れぬ仕掛けは、戦場に広がる桃色の円陣にある。
らぐっちょがその手に握るカザミドリ、おみやげ用に開発されるも採用、量産に至らなかった背景には、らぐっちょのご先祖もまた凝り性ゆえ、あまりにも高コストであったことがあげられる。
親骨中骨の木材は、落雷により倒れ役目を終えた御神木から削り出し、扇面の和紙はキリカ聖堂におさめる経文に使用される祈祷済みの最上級品。
その他染料に至るまで一切の妥協なく作られたカザミドリは霊験あらたか、畳めばスティックとしても作用するほどである。
そう、らぐっちょの波状攻撃を支える魔力の源はスティックの御業、スピリットゾーンによるものだ。
そして、もう一つ。
黄金鶏神社を発つ時には、痩せ我慢でその身体を支えていたらぐっちょ。
本調子とはいえずとも、そのコンディションは劇的に改善していた。
(流石は大地の箱舟の駅弁ですなー!)
大地の箱舟の駅弁は腹持ち抜群は当たり前、彩り、栄養バランス共に考え尽くされた紛れもない特級品であるが、らぐっちょがキマっている理由はもちろん違う。
「…頑張って。らぐっちょさま」
神気とは、祈りのエネルギー。
自分ならぬ誰かの幸せを、ただ乞い願う純粋な想いが、力になる。
そして今、他ならぬ神につらなるりゅーへーが、らぐっちょの為に祈っているのだ。
元気が出ないわけがない。
「ピンクやらブルーやら…それになんていやらしい戦い方だ…」
ベータは自身がサージタウス・マギアの立場だったらと思い、辟易して眉をしかめる。
霊脈魔法陣を敷いたのは、防御の為のみならない。
らぐっちょの放つメラミの3つの火球は、魔法陣により調子を崩され、それぞれがあらぬ方向からサージタウス・マギアに降り注ぐ。
頭上から、背中を目掛けて、果ては脚と脚の間をぬって腹の下から突き上げるように。
ありとあらゆる方向から攻撃を加えることで、マホカンタの穴を探すが、一撃たりともサージタウス・マギアには届かない。
「…見えた!」
しかし、カメラのシャッターでも捉えきれない刹那、勝機を見出したらぐっちょの瞳は、クエッと見開かれるのであった。
続く