「あぁ?竜だぁ?なんでぇ、目当てはソウラのやつと同じだったんか。しっかし、誰に聞かれようとなぁ、この村は太古龍なんぞとは関係ねぇぞ?」
大海原からルシナ村を挟んだ先には、一転して広大な山林が広がる。
まともに馬車も通せず、ルシナ村が海運に活路を見出さざるをえない原因となれど、その大自然からの恵みがルシナ村の支えとなっているのもまた事実である。
「午前中は漁の指揮とって……午後は薪集めついでにこんな山頂付近まで猪狩りとか……恐るべきフィジカルとバイタリティ……一体どうなってんの……」
「……もう一歩も動けない……モモ…帰りは運んでくれる……?」
「キュ~……」
普段、あげはしかその意味を理解できないモモの鳴き声だが、今この場においては『無茶を言うな』とありあり聞いて取れる。
執念だけで何とか笑う膝を立たせ、メモ帳を握りしめオルカンに詰め寄るユクの背後では、モモまでもが地に伏し、まさに死屍累々であった。
「いやいや、太古龍ってのは…よく分かんないけど、あのお皿の絵柄のことで!」
なんとも魅力的なワードが飛び出したものだが、今日の目当てはそれではない。
「あん?皿?……ああ!あれな!!」
顎に手を添えるその仕草に、オルカンの瞳にわずか宿る戸惑い、それはユクが核心に迫ったことを物語っていた。
「……これまで目的を偽っていた事をお詫びします。本当は私、あの島の秘密を確かめる為に来たんです。ウェナ諸島の様式と掛け離れたあの龍の絵、何か繋がりがあるんじゃないですか?」
「…………」
オルカンは考え込むように押し黙る。
ユクがこれまでオルカン達には目的を伏せていたのは、ルシナ村に着いた時におぼえた強烈な違和感がゆえだ。
いかに実害がなく、対処のしようもないにせよ、警戒が薄すぎる。
日常の風景に夢幻郷などという異物が現れたというのに、ルシナ村はあまりにも平常すぎたのだ。
勿論、全員ではなかろうが、夢幻郷についてあらかじめ詳しく知っているのではないかと仮定した時、全ての歯車は噛み合い、調査の方向性も定まった。
オルカンはじめルシナ村の皆はまるで家族のように温かく迎え入れてくれている。
その上で情報を秘する理由、その行き着く先はきっとユクと同じく、夢幻郷に眠る秘密を守るためだ。
知る者は少ないに越したことはない。
紙に残さぬほど徹底していることからみて、詳細を全て知るのはおそらく村長のみであろう。
ルシナ村の歴史は、500年にも及ぶ。
夢幻郷の秘密がどれくらい遡るか、とにかくその永きに渡り何も問題は起きなかったという事実、それを揺るがすだけの何かがなければ、その口は開かれるまい。
如何に強い手札を持とうと、タイミングを誤ればブタとなる。
切り出すなら、今だ。
「……あの島に渡る術を探る、怪しい者たちがいます。何かがあってからでは遅いんです!もしご存知であるなら、せめてあの島に何が隠されているのか、それだけでも教えて頂けませんか?」
ここぞと勝負をしかけたユクは、祈るような気持ちで答えを待つのであった。
続く