「……やはり、これほどの威力ならば、耐えられぬのだな」
奥の手といえど、この技は太陰の一族を率いアストルティアを侵攻した折に幾度か放った、いや、冒険者の強さを前に放たざるを得なかったというのが正しいか。
いつの時かは分からぬものの、いずれかを見て知っているのだろう。
拮抗状態から一転、ソードファントムに刻まれるも構わず、攻撃の手を増やし苛烈に攻め立てる。
結果、数手はソードファントムの剣陣を掻い潜り、イシュマリクの収束させつつあった魔力は霧散してしまう。
「そろそろ充分離れたか」
とどめの一手を潰された、皆がそう捉える中、イシュマリクだけが動じること無く淡々と呟き、ある呪文を発動させる。
「なに!?消えた……いや、これは……!」
アルファの口から、初めて驚嘆の声が漏れる。
「拡大・瞬間移動呪文!…っ、上か!?」
「……もう遅い」
虚をつき、ラインの力で変異させたルーラにてアルファの遥か頭上へ。
思うままに埒をあけられるからこその、強者の称号である。
左には、自由落下に任せる間にラインの拡大ものせて練り上げたバギクロス。
右には、相手のエレメントを強制的に反作用による爆発的反応を伴う状態に改変する理力の御業。
それを緻密に組み合わせ、敵へとぶつける。
好敵手のソウラ一行、そして時にはかつての大魔王ユルールにすら苦戦を強いた奥義。
「フォースギガブレイク〈風〉!!!!」
イシュマリクの必殺の一撃は、防ぐ間もなくアルファに直撃した。
必死に距離をとったがなお足りず、吹き荒れる暴風に飛ばされぬよう地にしがみつくユクたち3人の頭上を、爆心地で薙ぎ倒された木々や大岩が飛び抜けていく。
爆発的に膨れ上がる魔力の猛威の中で、イシュマリクは確かに敵が磨り潰されるのを見た。
しかし視界を白く染める程の暴風が吹き抜けた果てに、アルファは無傷で立ち上がる。
「どんな手品を使った……?」
その言葉はアルファにではなく、自身の持ち得る知識に向けて放たれたものだ。
回復呪文の気配はなかった。
そも、腕を治癒してみせたのとは、訳が違う。
フォースギガブレイクの直撃は確実に上半身、つまりはアルファ本体をも消失させたはずだ。
無に帰した存在を蘇らせる術などありはしない。
それこそ、時間を巻き戻しでもしない限り……
「種は明かさぬからこそ、奇術は成立する」
イシュマリクの思考を遮るように、アルファは太ましい指を器用にパチンと鳴らす。
途端、アルファの頭上に無数の蒼玉が生み出された。アルファはこのボディスーツの開発にあたり、デルメゼを参考にしたと言った。
当然ながら、再現したのはその剛力だけではない。
「さて、最後の機構の実地試験も終えたが、まだやることが山積みなのでね。このあたりで、先へ進まさせてもらおう」
生成されたサファイアボム、その数は20は下らない。
そしてそれらはイシュマリクではなく、フォースギガブレイクに巻き込まれぬよう遠く離れたユクたち目掛けて降り注ぐのであった。
続く