もっと、力があれば。
アルファを止めるか、シュナたちを護るか、己の不徳とするところにより二兎を捕らえられぬなら、どちらを選ぶかは決まりきっている。
ソードファントムへの変化を解除、スクルトとマジックバリアをありったけに拡大し外套に染み渡らせると、からくも滑り込み、サファイアボムの雨霰を耐え忍ぶ。
絶え間ない閃光と衝撃、永遠にも思える怒涛の攻撃の果て、ようやく視界が開けるとそこにはもう、アルファの姿は無かった。
「行け」
イシュマリクはルシナ村を指差し、ユクに言葉を投げる。
「え?でもこの数……」
戸惑っている間にも、アルファと入れ替わるように進軍を開始したサージタウス、その一体を斬り伏せ、同時に放った拡大・業火呪文で数体を溶解させる。
しかし、サージタウスの全体数から見れば爪の先にも至らぬ損害だ。
如何に魔王といえども、まさに軍隊そのものを相手に出来るだろうかと、不敬にあたるも考えてしまう。
「シュナもいる。造作も無いことだ」
その言葉に応えるように、バギクロスの旋風が吹き荒れ、放たれた独楽がレイピアの鋭い一閃の如くサージタウスを列で貫く。
「いずれにせよ、私と若様はルシナの村人たちに姿を見せるわけにはいきません、そちらはお願いします」海から何が来るのか未知数とはいえ、ルシナ村の村人を逃がすとなれば山の側、そうなればこのサージタウスの隊列に穴を開けねばならない。
包囲殲滅の陣形、敵の侵攻が進めば進むほど密となり、突破は難しくなる。
足止めと追撃、分散する策は正しい。
しかし、敵は戦略的撤退を選んだとはいえ、イシュマリクと数手渡り合い、実質無傷で切り抜けたのだ。
そも、あげはを救うためにはアルファと対峙せねばならないのは確定事項とはいえ、神話を切り抜いたような一連の戦いを見せつけられたあとでは、自分たちが託されるに足るかどうかと言われると、二の足を踏むのも無理からぬ話である。
「珍しく弱気なことだな。らしくない。貴殿の実力ならばそも足りるであろうが、ここまでの道中、何組か面白い連中を追い抜いてきた。彼らの目的地も、おそらくはルシナ村だろう。そろそろ……」
イシュマリクの言葉を待っていたかのように、彼方から飛来した光刃が、サージタウスの列、その一区画を薙ぎ払う。
「見たか!ケルビンジーニアスビームのこの威力!!ふはははは!!!」
「ブレイブバスターキャノン!!……てか、出力を弄りましたね!?砲身が焼け焦げてる!!うわぁ、煙!煙が!?」
「ふはははは!!はっ、ゲッホァ…ふは…ゲホッ!は…ははゲホァ!」
遺憾ながら、死んだ魚のような目で咳き込みながらも、頑なに笑い続けるプクリポの姿に、ユクは見覚えがあった。
遥か上空を行くドルボード、その下部に狩りの獲物の如く仲良く吊るされたハクトとケルビンを差し置いて、操縦席には何故だかてっこうまじんが居座っていて、相変わらず出会い頭からもう滅茶苦茶だ。
「あれは……ちょっとお仲間カウントしないで欲しいというか……」
ユクはいつかの自分のように、今まさに大理不尽に晒されているであろう黄銅のスーツの御仁に同情を禁じ得ないが、それはそれである。
出鱈目な威力は当然仕様に則したものではなかったのだろう。
くねくねと不安定な軌道で黒煙を棚引き、ウルベアンチェイサーはルシナ村の方向へ尚も遠ざかっていく。その様に呆然と見惚れていると、ウルベアンチェイサーと示し合わせていたかのように、サージタウスの列の途切れ目を1台のドルボードが突き抜ける。
続く