「……何でこんなことになってるんですっけ?」
見上げれば風に枝が揺れ、薄紅色の花びらが春時雨のように舞う。
「知るか」
あっけらかんと吐き捨てて、かげろうは紅枝垂れ桜の下にあぐらをかいた。
「まぁこれで何かしらケリがつくならいいだろ。いくら私にお前がいるとてこの数、いちいち斬鉄していたら刀が保たん」
この小高い丘から見下ろせば、東西に分かれ黒と白の甲冑群が睨みをきかせあっている様がよく見える。
その数、両陣営合わせれば百は下らない。
かげろうといなり、確かに剣の達人が2人揃い踏んだとて、少々骨が折れる。
さまよう武者よろいと、さまよう白武者。
毎年、春の終わりを告げるように姿を見せるこの魔物の群れはある種、カミハルムイの風物詩となっている。
出現はわずか1日、加えて両者はこの合戦場跡で互いに睨み合うだけで領民に被害はないとなれば、カミハルムイ王家が静観するのも、むべなるかな。
しかし当然、対外的にもただ指を咥えているわけにはいかず、毎年少数精鋭を現地に送り、街道等に被害が及ばぬよう監視を行うこととしている。
ニコロイ王の勅命を受けたかげろうといなりに、冒険者協会からの推薦のヒッサァとマユラ。
枝垂れ桜の揺れる丘より、詮無き合戦を見守って終わる楽なクエストと思いきや、こちらの姿を見るなり駆け寄って来た白黒それぞれの鎧武者の一群によって、ヒッサァとマユラが神輿を担ぐが如く連れ去られてしまう。
過去例を見ず、またあっという間の行動に、取り残されたいなりとかげろうは呆気にとられる他なかった。
そうして、連れ去られた2人は、今や戦場のど真ん中で向かい合っている。
「どうやら互いに、彼らの頭領だと勘違いされているようなのだわ……」
鎧武者たちと言葉は通じずとも、それくらいは、その身振り手振りと背に受ける期待に満ちた重圧から察することは容易だ。
「何故でしょう……」
彼らの頭領は、その鬼人が如き戦いぶりから、怪力に任せ棍棒を自在に振るった女傑は『黒鬼』と、流麗な槍術に長けた稀男は『白鬼』と呼ばれ恐れられていたそうな。
だがしかし当然ながらエルフ族、ヒッサァやマユラには縁もゆかりも無い。
「さぁて?さっぱりなのだわ」
首を傾げるヒッサァに、マユラもまたお手上げだとひらひら頭を振った。
しかし、何故選ばれたのかは理解出来ずとも、彼らが何をしろと欲しているのかは分かる。
ヒッサァとマユラをぐるりと取り囲む円陣。
戦って、決着をつけろということだろう。
反旗を翻し、この数を蹴散らすのは、すっかり高みの見物を決め込んでいる2人を加えても、荷が勝ちすぎる。
「とりあえず適当に……」
それらしく振る舞ってやり過ごしましょう、と続けようとしたヒッサァだが、次の瞬間、目の前からマユラの姿は消えていた。
ヒッサァの膝にも満たぬ低姿勢でマユラはキラーパンサーのように飛び込みざま、くるりと宙返り背を向け、逆立つように揃えた両足で蹴り上げる。
そのまま顎を穿つことも出来たはずだが、マユラの狙いはそこではない。
ヒッサァの手に握られていた槍が弾き上げられ、宙を舞う。
そしてその頃には腕のバネだけで上体を跳ね起こし立ち上がったマユラが、得物を失ったヒッサァの息がかかるほどに肉薄していた。
続く