バチッと竹刀を思い切り叩き合わせたかのような音が鳴り響く。
立ち上がりざま、鳩尾を狙い間髪入れずに放ったマユラの寸勁、しかしヒッサァはそれを右掌で受け止めていた。
そして掲げた左手に、槍が戻る。
マユラは彼方へ蹴り飛ばすつもりであったが、そうは問屋が卸さない。
ヒッサァは咄嗟に位置をずらし、直上に槍を打ち上げさせていたのだ。
間合いの外に逃げようとしたマユラだが、がっちりと掴まれている拳を引き抜くに手間取り、ヒッサァの真横に薙いだ槍の穂先が僅かに掠め、切断された金糸が舞う。
「適当にと聞こえたけれど、気のせいだったかしら。すっかりやる気じゃない」
「生半可では彼らが納得しない。そういう判断でしょうか?」
「いえ?……ああ、いやまあ当然、それもあるのだけれど。同じく武の道を歩む者としてどちらが強いか、ハッキリさせておくのも悪くないのだわ」
悠然と高みから見下ろすようにやや身体を反らし、パキパキとマユラは拳を鳴らす。
「ああ、確かに。良い機会かもしれないですね」
右手のしびれを払うように、ぶんぶんと数回槍を振るうと、下段に落ち着ける。
当然、マユラに向くは石突ではなく穂先の方だ。
腕と槍、攻め入るには圧倒的な懐の深さのみならず、ヒッサァのその構えは上段に比べ派生が多く、攻撃のおこりが掴みにくい。
先の攻防もそうだ、やる気のないふりを装って、この男はとんだタヌキである。
「目には目を、歯には歯を。槍には槍を、なのだわ」そうは言いつつ、マユラが徒手空拳であるのは変わりない。
しかしマユラが固めた拳の型を見て取って、ヒッサァのこめかみからは、つうと冷や汗が一筋流れ落ちた。親指と人差し指、薬指と小指で中指を挟み込むようにし、中指だけを少し出っ張らせて握り込む。
この突出した中指、面でなく点で相手を突く拳の型を、中指一本拳とよぶ。
この特異な拳を固めるには相当な握力と、指自体の鍛錬が必須であり、腕立て伏せならぬ指立て伏せにて鍛えているマユラだからこその芸当である。
「早々にケリをつけて、美容院を予約しないとなのだわ」
いつまで待とうと攻めづらさは変わるものではない。嘯いて腹を括ると、飛び膝蹴りかと見紛うような跳躍からの爆裂なラッシュを繰り出す。
「反対側も同じように斬り揃えてさしあげますよ」
紳士的な人物で通っているヒッサァであるが、この時ばかりはニヒルに応酬すると、槍を回して盾とし拳を受ける。
先の寸勁と同じように受けようものなら、マユラの言葉の通り掌には槍で突かれたような大穴が穿たれるだろう。
気早に攻めるはマユラにしても賭けであったが、防戦に長けたヒッサァのこと、仕掛ければ槍を突き出さずこうくるとふみ、見事思い描いた状況に持ち込んだ。そのままに圧して圧す。
4発、8発、16発…………
切れ目は当分来ぬと思わせておいて、不意に右拳を大きく弓引く。
続く