流石に神は的外れであるが、世を忍ぶ仮の姿、というのは、あながちまちがいではない。
「…へくちっ!!」
フェイスベールの奥でくしゃみが弾け、頭が揺り動かされたことで帽子が浮かびそうになる。
彼女に随伴するしりょうのきしのスメシは大慌てで帽子を抑えて、そこに隠された2本の角が露呈するのを防いだ。
「ありがとう、スメシ。急にムズっとしてしまって。何かしら?メラゾ熱でもあるまいし……」
スメシは見ての通り言葉を発せぬ身の上なれど、その思うところはめ~たにしかと伝わる。
「え?噂話をされるとくしゃみが出る!?アストルティアの民って不思議なものね……って、ちょっと待って、今のくしゃみってそういう事!?だとすれば、いよいよ私のウェディへの変化も板について来たってことよね!!」
噂話の語り部が、他ならぬゼクレス魔導国と新興国ファラザードの魔王だと知れば、くしゃみどころでは済むまいが。
つい今しがた、魔族と身バレする危機を免れたばかりだというのに、立て続き不用意な発言のさみだれうちにスメシは瞠目する。
め~たと主従の契約を結ぶスメシなれど、傍から見れば2人の関係はまるで親子のようだ。
無論、親はスメシの方である。
今もまた、両手いっぱいの荷物に蹌踉めいため~たを、スメシがそっと支えてやる。
本来、荷物持ちなどまさに従者たるスメシの役割であるが、この荷物ばかりは、め~たが運ぶことに意味があるのだ。
白と赤入り混じる薔薇の花束に、一緒にと誘われた際を考慮したアルコール度数低めの果実酒などの及第点を与えられる品のほか、竜と悪魔を混ぜ合わせたような石像に、血の塊のような宝玉を銜えた鴉を象った杖などの明らかなガラクタまで。
め~たは、魔族ゆえ世事に疎いのみならず、その気質の為か非常に騙されやすく、財布の紐は常々スメシに握られている。
そんな中でも、今日の買い物だけは、予算が青天井であった。
「……喜んでもらえるかしら?」
何故ならこれらの荷物は全て、め~たの正体を知るもなお交友を深めてくれた冒険者、グレースへの贈り物なのだ。
長寿ゆえの弊害か、成熟するまで生き延びた魔族の中には、自らの生への執着が薄い者が少なからず見受けられる。
め~たもまた例に漏れず、そのことはスメシの頭を永らく悩ませてきた。
そんなめ~たが、先だってグレースに自身の誕生日を祝ってもらったことへのお返しとはいえ、まさしく『生命』を祝うイベントに興味を持ってくれたのだ。
財布の紐だろうと、鋼鉄の鎧で形作られた頬だろうと、だるんだるんに緩むというものである。
「うん、きっと大丈夫よね!」
プレゼントの中には、かつてグレースと共に遊んだ絶版品のカードゲーム、その幻のエキスパンションパックという勝ち確の品も含まれている。
やがて往来に仕事を終え帰路に着くグレースを見留め、自信をつけるようにぶんと大きく手を振れば、今度こそすぽんと帽子が蒼天に舞う。
め~たのうっかりと、それに振り回されるスメシとグレース、3人のかしましい様子は、実はすっかりこの街の風物詩となっているのだが、本人たちは知る由もない。
ともあれ、グレースの誕生日を祝う楽しいひとときは、今日も今日とて、長いお説教の後になりそうである。
~HappyBirthday~