ヴェリナード城下町の中心地。
本来そこには水面が広がり、立つことなど到底出来る筈もない。
しかし今宵、かたや白と水色のショートドレス、かたや橙と赤の情熱的な色彩を身にまとった水と炎の精霊、もとい、2人の乙女が背中を合わせ佇んでいる。
ちょうど遡ること1年前、海底離宮攻略作戦のさなか、復讐の月の照射によりヴェリナードは消滅の危機に直面していた。
ウェディの魔法使いマルチナはヴェリナード王家ならびに魔法戦士団全面協力のもと、周辺の海面をも凍らせ巨大なレンズとすることでこれを反射し、ヴェリナードを救った。
しかし、危機は乗り越えようとも、その時の恐怖は人々の心にどうしても根付く。
であれば、なんとするか。
思わず目を見張り息を呑み、心奪われるような素敵な光景で包み込めば良い。
女王ディオーレの綸言のもと、マルチナは入念に準備を重ねてきた。
その手始めとなったのが、パートナー探しである。
氷結呪文により作り上げたこの広大なリンク、取り囲むヴェリナード城下町の全てが観覧席となることを考えれば、1人で舞い踊るはあまりにも寂しい。
エスコーダ商会の情報網を頼りにアストルティア全土を巡り、ようやくダーマ神殿で興行中のところを見出したのが、オーガの冒険者レミアであった。
しかし踊り子としては一流でも、氷上、さらにはペアで踊るとなればまた勝手が違うは論を俟たない。
ルシナ村の浜にて練習用のリンクを作り励むも、今日までわずか3ヶ月。
習熟に至らせるには、あまりにも短い時間と言わざるを得ないだろう。
故に、マルチナは背中越しに伝わるレミアの震えを緊張から来るものと捉えたが、その実は違う。
(うわぁ凄い、本当に一面凍ってる!!)
筋肉を強張らせ、ポテンシャルを落とさんとするこのキンと尖った氷上の空気すら、夜闇に染まったデフェル荒野、ピラミッドを背に舞った夜を思わせてレミアには好ましい。
彼女もまた、突入部隊を支える調理班の一員として、海底離宮攻略作戦に参加していた。
彼女の戦場は移動要塞えぐみ2内の厨房にあり、拵えた握り飯は二百や三百では済まず、揚げた唐揚げ、焼いた出汁巻きの数もまた然り。
復讐の月の顛末も伝え聞いてはいたが、持ち場の違いから、作戦の大きな転換点となったこの光景を目の当たりにするのは当然初のことである。
まさに夢の大舞台でこれより演じる一幕に思いを馳せ、その身は歓喜に打ち震えているのだ。
そんなちょっとしたすれ違いこそあれ、ここまでくれば互いに全力を尽くすのみ、いよいよその時は訪れる。
「……さぁ始めましょう!乙女の2人舞台!!」
壮大な序曲からメロディは封切られ、2人の踊り子は弾かれるように滑り出す。
両者の距離はぐんぐんと開き、リンクのほぼ直径へと至る。
曲目も次々と移り変わり、吹き抜けた賑やかな街の息吹は、やがて華やかなる王宮へと招かれていく。
ウェディとオーガの体格差はあれど、絹を織るが如く指先まで緻密に計算された優雅な舞を、2人は見事鏡写しのようにシンクロさせてみせた。
続けて、迫る脅威に鼓動は高鳴り、がらりと曲調が変わるに乗じて、レミアは腰の扇を、マルチナは背の杖を手に取り、頭をも振り乱す荒々しい踊りへと転じる。
既にかなりの長丁場であるが、マルチナは勿論、レミアもまた一切の精彩を欠くことはない。
リンクの対極位置を保ちつつ、はや何度周回したことか。
それも渾身の力を込めた刃の旋律が流れ始めれば一転、リンクの中央、あわや衝突するのではという至近に迫り、氷の飛沫を後引き、向かい合いながら独楽のような3回転ジャンプですれ違う。
凛とした刃の如く手脚をピンと伸ばし、片足での見事な着氷に観客のどよめきが収まらぬうちからはや折り返し、再度の3回転ジャンプ、更に着氷したその足で立て続け2回転というコンビネーションジャンプ、続いての逢瀬ではとどめとばかりに4回転と、まさしく勇者と魔王が剣と爪を交えるが如く何度も何度も美しい技が交差する。
遂には場を盛り上げてきた交響曲も終盤、更なる未来へと向かう目覚めし五つの種族を象徴するように、双方の手が届く距離まで寄り添うと、先までの激しいジャンプの応酬は夢幻であったのか、息を合わせたリズミカルなステップで魅せる。
そうしていよいよの幕引き、音楽が鳴り止むに合わせ、マルチナから身体を預けられたレミアはその腰を掴むと、渾身の力でリフトした。
上空にて蹴り足をピンと伸ばし、その身を抱くように畳んでいた両腕を力強く広げる。
ここへ来て、相容れぬように思われていた2人の衣装、その色彩は見事混じり合い、観客席の人々はそこに蒼天へと翼を広げ舞い上がる神鳥ラーミアの姿を見た。
その瞬間、次々と花火が打ち上がり、夜空に幾重にも大輪が花開くのであった。
続く