程よく胃も広がり始めたところで、お次は大きめの貝へ。
まさしく柱と冠する通り、立派にそびえ立つ貝柱を誇るホタテを並べていく。
「ところでだ、じにー氏」
手際良く大アサリ同様にホタテにタレをかけていくじにーの肩に、すっかりアルコールの回ったかげろうが絡みつき、耳に口を寄せる。
「……アレの用意はどうなった?」
今日の貝焼きに合わせてじにーに送った酒の瓶、その包みにはある密書が潜ませてあったのだ。
「……おっとかげろう様。ありゃあ危険なブツですぜ。ヘタをすりゃあ……」
如何にも悪巧みしています、と宣言せんばかりに顔に影を浮かべて、じにーはかげろうを焦らす。
「あるのか?ないのか?」
「へへ、すっかり禁断症状が出ておいでだ」
掴みかからんばかりの勢いに薄ら笑いを浮かべ、かげろうの腕からするりと抜けると、じにーはかげろうお待ちかねの品の調理に取り掛かる。
あえて醤油をかけずに残されていた、数枚のホタテ。菜箸で手早くその身を崩すと、隠し持った椀から、黄色い液体を注ぎかけた。
たちまち酒と味噌の濃厚な香りがふわっと漂う。
「ひょーーーっ!これよこれ!!」
カミハルムイ城の厨房には、ある目録が存在する。
すなわち、かげろうに給してはいけない料理のリストである。
その中でも危険度最上位にランクインしているのが、この貝味噌焼きなのだ。
ホタテに注いだは、味噌と味醂、そこに酒と最後にたっぷりの生卵を加えよく混ぜ合わせたもの。
濃縮されたホタテの旨味と、むせ返るほどの麹の滋味、もはや歩み寄れぬほどに個性豊かな両者の肩を玉子がガッシリと抱き無理矢理に至近距離へ繋ぎ止めて、これでもかと殴り合わせる。
そのあまりにも濃厚な味わいは白飯不可避。
かげろうが幼少の砌、料理長の戯れでこれを口にした結果、城内総員の一食分にあたる白米を食べ尽くしてしまった為に禁じられることとなった、いわくの品である。
しかしながら、かげろうもとうの昔に元服の儀を終え、まあその、今や恐らく人並みに節度は持ち合わせ、米に代わり酒という手もある。
「そんな美味しそうなもの、独り占めしたら絶交ですからね?」
「むぐっ……」
そして何よりも、今日この場にはそんな暴れ馬の手綱をしかと握れる稀有な存在がいるのだ、であれば貝を存分に満喫する一手として、試さぬ道はない。
自分に向けられた訳では無いものの、あまりにもアイスフォースが盛り盛りないなりの視線に背筋を震わせつつ、各自思い思いに米をよそう。
皆一様に掌へ大雪山を抱えることとなったが、心配はいるまい。
貝焼き味噌の他にそもホタテもあれば、最後にはどどんと1人1枚アワビのステーキまで待っている。
香ばしい薫りは賑やかな声をのせて、星が輝きを増す頃まで棚引いたそうな。
続く