「ドルセリン、チャージ!!!」
急にすっくと立ち上がるものだから何事かと目を丸くするミヤコをよそに、ココソーはベルトにドルセリン管を叩き込む。
「正義を貫く、情熱の炎!」
机やら本棚やら些か窮屈だが、四畳半もあれば魔装展開には事足りる。
「うわっ眩し!え、何!?後ろで何が爆発したの!?電子レンジ!?アルミホイルでも入ってた!!?……てか服変わってるし!ど~ゆ~こと!?」
「アカックブレイブ!!!」
「…話聞けッ!!!!」
超駆動はツッコミすらも遥か置き去りにする。
カッとミヤコを飛び越え背後の窓からも迸るほどの鋭い閃光の果て、特殊環境スーツ、魔装をまとったココソー、もとい、アカックブレイブの姿がそこに在った。
頭上の光輪は金色に染まり煌めく星々をまとい、胸部ベストはアーマーに変更され防護能力を高めつつも最小限度の大きさに収めることでデッドウェイトになることを避けた。
稲妻を固めたような深紅のバイザーは既にアカックブレイブが敗北した世界線で博士から託された形見の品、動力パイプが晒されていた脚部も今や気品すら漂う脚甲に覆われている。
数え切れない現地改修を経て大きく様変わりをした魔装は、これまでのココソーの戦いの日々を物語るようである。
「ちょちょちょちょーーッ!!はぁ!?もしかしてそれビーム!?とにかく物騒なモノはしまって!」
しかしその中にあっても旅の始めに託されたガントレットは未だ健在だ。
数多のユートピアを葬り去ってきたフォトンサーベルを引き抜き、ノートパソコンに突き立てようとしたココソーを、すんでの所でミヤコが食い止めた。
「いいから早くそこをどくんだ。直ちに破壊せねば……!」
この端末は飯の種なのだ、壊されでもしたら、たまったものではない。
「この世界にはね、こういう便利なものがあるの!!いいから大人しく見てて!」
じりじりと伝わるフォトンサーベルの熱気にも怯まず、ミヤコは印籠のごとく黄色い箱をココソーにバシンと見せつける。
「……ノーソン…インターネット……セキュリティ?」
そも、端末画面の一画で火を吹いたり腕を振り回して暴れてみせる姿は、ウイルス対策ソフトによる演出である。
「これで……よしっ、と」
ココソーが神妙な面持ちで見つめる中、カチカチとミヤコがマウスを操作し何箇所かクリックをすれば、哀れコンピュータウイルスは涙を浮かべ水洗便所に流されるような映像とともに完全に消去された。
「ん?おお、まさか……こんな簡単に?」
それは鍵がピタリと鍵穴に合わさるような、パズルの最後のピースがピタリと納まったような、ストンと何か綺麗に腑に落ちる感覚。
何度となくその時を迎えるにつれ、いつしかココソーにはその感覚、すなわち、今いる世界のユートピアが消滅した瞬間がわかるようになっていた。
「協力に感謝する、博士。私はそろそろ行かねばならないようだ」
「えぇ……!?行くって何処に!?あ、また『他の世界』か……」
「うむ」
ミヤコもまた、まさか今しがた削除した何の変哲もないようなコンピュータウイルスがココソーの仇敵であろうとは予想外だが、なぁに、事実は小説よりも奇なりというものだ。
「……その、うまく言えないんだけど……何か、ごめん。何処かの世界の、私のせい、なんだよね」
「ふふっ、やはり貴女は、博士なのだな」
細部は違えど、いつもと同じやりとりに思わずココソーの口角が緩む。
「この世界の私に、よろしく伝えておいてくれ。では、さらばだ」
そうして、この数時間の出来事がまるで夢幻であったかのように、ココソーは淡い燐光をまとい、ミヤコの前からふわりと姿を消したのであった。
続く