「よし、お腹も膨れたことだし!さぁて、このコはどうしようかねぇ」
お腹を軽くさすりながら酒場をあとにすると、イズミは小指の先ほどの小粒な宝石を陽光にかざした。
アレキサンドライト、それは抜けるような蒼天のもとでは青緑、夜の暖かな団欒の光の中においては赤く輝く神秘の石だ。
ここまでの道すがら、ちょっとしたクエストで手に入れたお宝である。
しかしながら、朝飯前にこなせたクエストだけあってサイズも小さく形もやや歪で、このままではさして良い値はつかないであろう。
何処かしらで手を加えてやる必要がある。
手っ取り早くはヴェリナードのアクセサリー屋を頼ることだが、あの悪名名高き店主のことだ、いくら要求されることやら……
いっそ自分でデザインするのも悪くない、などと思案していると、その耳に飛び込む声があった。
けして大きな声ではない。
むしろ喧騒にのまれ、消え失せてしまいそうなか細い声だったが、イズミは確かにその声を捕まえた。
「ねぇどうするのお兄ちゃん?せっかく頑張ってお花そだてたのに……」
「しょうがないだろ、いくら母さんに内緒だからって、あそこは魔物の住処に近すぎたんだ。何か代わりを考えよう」
「でも、でも、お母さんの誕生日、今日なんだよ?」「分かってるよ!分かってるってば!!」
仰け反って声のやってきた方を見やれば、今にも泣き出しそうな幼い兄妹が目に留まる。
「おっほん」
往来の中であっても2人に届くように、わざとらしい咳払いを一つ。
お宝は天下の周りもの。
しかし、それぞれに納まるべき場所がある。
路傍に迷い、例え奈落の果てに落ちようと、必ずいつかそこへ辿り着く。
そう、かつてイズミの運んだ、あのアズライトのように。
「そこな少年少女!お困りのようだね。このイズミさんが一肌脱ごうじゃあないか!」
ニカッと微笑みかけたイズミの掌の中で、6月の誕生石は水を得たウェディのように、一際キラリと輝いたのであった。
~HappyBirthday~