神速メラガイアーが放たれるより前、一息に距離を詰めると、ぐんと身を沈めてからの跳躍でヤクト・メイデンドールの長身を上回り、直上でくるりと回転ざまにケラウノスを振るう。
ひらりと着地した背後で制御を失った火球が爆砕し、辺りを暁に染めた。
「ひぃぃ、気持ちわるっ!?」
至近の爆発と衝撃で、囚われの眠り姫も目を覚ましたようだ。
あげはが檻の中から見上げたヤクト・メイデンドールの上半身は、爆発の衝撃で踏み潰されたしびれくらげのように歪に広がり、のたうっている。
メモリーキューブ同様、その身は液体金属で構成されていたのだ。
故に、見た目に反して大したダメージにはなっていないことは百も承知。
ハクギンブレイブは新たなドルセリン管を手に取ると、ケラウノスの柄をたぐり寄せ、その穂先を飾る一角獅子のあぎとに挿し込んだ。
ごっくんと生物的な音を立てて、管の中身が吸い込まれる。
「ドルセリン補充完了。喉越しがイマイチだ。次は6℃まで冷やしておくことを所望する」
「……冗談がうまくなったもんだ」
出会った頃を思えば信じられぬほどに、ケラウノスは饒舌になった。
それは間違いなく、フタバの影響だろう。
僕も、変わった。
まだ自分が何者かを忘却したまま、ハクギンの遺した夢の余熱にあてられてヒーローを目指していた頃、ドルブレイブショーの観客席からこちらを品定めをするような視線に、正直に言えば最初は恐怖を感じた。
でもやがて、当時の僕が戦う力を持たず、自らの目的の役には立たないと知ってなお、傍らに居続けてくれるその背中に、追い付きたいと思うようになった。
SBシリーズの機体に組み込まれたからではない。
ハクギンからこの身体を託されたからではない。
ケラウノスにリミッターを解除してもらい、魔装展開できるようになったからではない。
古の戦士、レオナルドのデータを取り戻したからでもない。
アカックブレイブの導きがあった。
ハクトくんの応援の声に後押しされた。
そして何よりも、今ここにこうして僕が立っているのは、いつだってこの頼りない兄をただ信じてくれる、フタバがいたからだ。
だから、彼女の未来を守るために、何としてもこの場でヤクト・メイデンドールを破壊し、アルファの目論見を潰す。
「最大出力は60秒を保証する」
あらためて宿る決意の焔はケラウノスに伝播し、飲み干したばかりのドルセリンを燃え滾らせる。
アカックブレイブのように、颯爽と皆を守るヒーロー。
ハクギンがかくありたいと願った姿から、遠くかけ離れていることは分かっている。
それでも、今の僕をきっとハクギンは認めてくれる。……なんて、我ながら虫が良すぎるとは思うのだけれど。
ケラウノスの槍先を軸とし、長大に展開された金色に輝く粒子の刃で、五芒の星を重ね描くように瞬く間に無数の斬撃を放った。
ようやく像を結ぼうとしつつあったヤクト・メイデンドールの上半身は再びざんばらに掻き乱されたが、切断面は早くも植物の根のように泡立つ。
バツの字の切れ目が閉じきらぬうちからその顔は絶唱を浮かべ、ボコボコと浮かび上がる無数のイオグランデの光球にハクギンブレイブはやむを得ずヤクト・メイデンドールと距離をとる。
「コアを破壊せねば効果は無いと思われる」
「百も承知だよ!」
先の連撃はヤクト・メイデンドールのコアの位置を探る意図があった。
問題はその結果として、コアを自在にその体内で泳がすことが出来ると分かったことだ。
狙いが一処に留まらないのでは、斬撃では分が悪い。射程を犠牲に、粒子の刃を円錐の如く太ましく形取る。
やがてイオグランデの閃光が果て、逃げ場が無いほどに抉り取らんとケラウノスを振り被ったところ、ハクギンブレイブは目の前の光景に呆気にとられた。
「な……に…!?」
あたりへの注意が散漫になっていたのは認めよう。
しかしあまりにも一瞬、背後から急接近するアルファの巨体に気付いた時にはもう既に、その太ましい拳がヤクト・メイデンドールの胴を穿ち、その掌には鳴動する赤黒い球体がしかと握られていたのであった。
続く