クリスマス装飾に光揺らめく、冬のレンドア。
駅の南口に一人、誰しもが思わず見惚れてしまう幻想的な街の光景には目もくれず、フライナは自らの服装におかしなところがないか、入念なチェックを行う。その回数たるや、着替えの時から数えればもはや3桁には至る勢いである。
平素、マージンの大邸宅のコンシェルジュとして住み込みで働いているのを言い訳に、持ち合わせは仕事着ばかりで、いざこういう時、よそ行きの服装の手札が少ないことは大いに反省せねばなるまい。
年末の忙しさに準備が遅れ、本日のコーデは大慌てでおしゃれストリートに駆け込み、ショーウィンドウに飾られていたマネキンの通りに買い求めた。
マネキンに添えられた着こなし写真にうつるは、ウェディのスーパーモデル。
神様、仏様、じにー様。
今日のみならず、フライナの私服はその殆どが同様にして調達したものであり、過去の実績から信頼はぶ厚い。
故に大外れはないと思いたいものの、種族の違い、年齢の差、加えて比較するも烏滸がましい話であるが、ここ数年、代替わりを許さずトップモデルとして鎮座し続ける彼女の美貌を自分と比べてしまい、否が応でも不安は高まる。
いくら相手の両親から公認を得ているとはいえ、少々あぐらをかきすぎて自分磨きが足りないのではあるまいか。
実際、それは全くの杞憂でしかないのだが、フライナは己を戒めるように両頬をパシンと軽く叩いた。
そしてそのまま、これもまた何度目になるか、気持ちを落ち着かせるためにフライナは革手袋に包まれた自らの両手を見やる。
ところどころ擦れて飴色に転じるほどに長く長く大切に使い込まれたその革手袋は、よく見ると親指の先に余裕があったり、逆に薬指は短かく、突っ張ってしまっていたりと、歪な仕上がりである。
だがフライナには、ハクトが何年も昔に手作りで贈ってくれたその革手袋が何よりも輝いて見え、見惚れているうちに幾分か気持ちも落ち着いた。
「ごめん!お待たせ!!」
そんな詮無き一連の行動をさらに追加で2セットは繰り返した折、ようやくフライナの待ち人がやってくる。
「いいえ、私も今着いたところですから」
フライナの肩を僅かに白く染める雪を見れば、それが優しい嘘であることは明白だ。
しかし、クリスマスのデートで相手を待たせるとは何たることかと彼を責めるのはお待ち頂きたい。
ハクトの名誉の為に付け加えると、現時刻は約束の40分前であり、けして遅刻したわけではないのだ。
今や齢25を数えたハクトであるが、残念ながら父の血が濃かったようで、ついぞフライナにその背が並ぶことはなかった。
しかし一端の冒険者としてそれなりに実績を積み重ねただけあって、フライナの隣に立っても見劣りはないのであるが、フライナと同様、自宅の姿見の前で自分が彼女に相応しいか否か、悶々と頭を抱えていたことは蛇足である。
続く