そしてこれまた遠く離れて、プクランド大陸のとある畑。
「ん、良い塩梅だ」
エルフの術師、アマセは掘り起こしたばかりのジャガイモに耳を添え、その水分含有量がこの上を望みようもなく最高であると聴き取った。
「にんじんはこんくらいで良いかい?」
「玉ねぎも充分でしょうか」
「うん、皆ありがとう」
土にまみれた顔を上げ、オーガの少年は仲間たちを労う。
如何に百戦錬磨の仲間たちとはいえ、畑仕事は不慣れな分野である。
少々手間取ってしまった感は否めないが、何とか野菜の調達は予定の期間内で間に合いそうだ。
「何だか気付けば大ごとになってたなぁ、大将」
「はは、まあ、ソウラらしくて良いじゃないか」
ユルールの故郷であるエテーネの村は復興し、妹のユメルも呪いから解き放たれた。
当初の旅の目的を遂げてから迎える初の年越し、どうやって過ごそうかと考えあぐね相談した結果、エテーネの村に親しい友を招き、共に祝おうという話に相成ったのだ。
しかしまあ、これまでに辿りしはけして短くない旅路、冷静に考えれば親しい友が少ないはずもなく、こうして手分けし宴の準備に励んでいるというわけである。
「従姉妹の姉さんやソウラたちはもうエテーネに?」「ああ、きっと材料の到着を待ち焦がれている頃だよ。早く向かおう」
聖夜の贈り物を届けてまわる妖精の如く、白い大きな包みに野菜を山盛り詰め込んで、ユルールたちを乗せた飛竜は空へと舞うのであった。
「さぁ、とりかかりましょ!」
「「「「「お~!!!」」」」」
メレアーデの号令のもと、エプロンという戦支度を整えたアズリア、ユメル、アンルシア、エステラ、イルーシャたちは村長宅の仮設キッチンに並び立つ。
今日のゲストは軽く100人以上、村の衆も駆け付け、村長宅は既に熱気に満ち満ちている。
カレーを仕込む鍋とは別に、迫力あるブツ切りの猪肉が踊る鍋の中にローズマリーとセージ、オレガノを加え、臭みを消す。
今日のカレーは特別レシピ、肉は最後に加えねば、味が乱れてしまうのだ。
玉ねぎをじっくり炒めて作るベースに、野菜をヨーグルトとスパイスでマリネしたものをあわせ、弱火でじっくりじっくりと時間をかけて煮込む。
そこにナッツペーストを合わせることで、素材の旨味に香ばしさと深みが加わる。
そして唐辛子などの刺激的なスパイスはあえて省き、クローブ、カルダモン、コリアンダーにシナモン、クミンなどのスパイスで重厚な香りを演出する。
たかがカレー、されどカレー。
このコルマと銘打たれたカレー、その実は古代ウルベア帝国の宮廷料理であると知れば、この何処か高級感を醸す洗練された特有の味わいにも得心がいく。
失われた古代帝国の味で皆をもてなそうという提案は、メレアーデとユメルからであった。
今日までの旅路、当然ながら、良いことばかりではない。
特に古代ウルベア帝国での出来事は、2人にとって痛恨の極みであった。
それでも全ての出来事に、意味はきっとある、きっと、あったのだ。
故に、過ぎ去りし時に感謝し未来への扉を開く宴に際し、最適であると考えたのである。
やがて日も傾き始め、空きっ腹にはめっぽうツラい豊かなスパイスの香りがエテーネの村に立ち込める。
その髪型と無鉄砲さから敬意を込めて突撃魚と称される少年は、仲間たちと門松に獅子舞、村全体を新年のエルトナ調に飾り付け、その出来栄えを前に誇らしげに鼻をこする。
その背中にぶつかった元気な声に振り向けば、懐かしい顔がそこに在る。
「……お!よく来てくれた!!君が一番乗りだぜ!さぁさぁ、宴を楽しんで!!!」
~今年もお世話になりました、来年もよろしくお願いします~