ヴェリナード上層からユナティとミャジの二人は眼下に目を走らせ、その警笛の主人を二人は直ぐに発見した。
「あの船ね。後ろから追っているのは・・・海竜かな?恵の歌も気にせず追って来るなんて、余程空腹なのかも」
警笛を鳴らしたのは外洋からヴェリナードに向かう一隻の商船だった。まだ港まで距離が離れているが背後から追うモンスター、海竜は着々と距離を詰めている。恵の歌で守られているこのウェナ諸島の、それも巨大な入江状になっているヴェリナード付近まで海棲モンスターがやってくる事は非常に稀であるが、そう言った場合はこうして魔法戦士団やヴェリナード衛士団が対処を行なっている。
「あの距離では港からの救援は間に合わない可能性があるな・・・狙えるか?」
ユナティの言葉にミャジは小さく微笑むと、答えの代わりに近くに置いていた愛弓「スチームショット」を手に取った。
「風は無し、遮蔽物も無し。これで外したら冒険者の誇りに傷が付くわ!」
高らかに宣言したミャジは、頭上の「機工博士のぼうし」からゴーグルを顔にかけると、弓の機構に指をかける。すると弓上部のギアが回転し、瞬く間に弓と弦は身の丈程まで伸び巨大化した。
もはやオーガでも扱わない様な大きさになったそれをガチリと城壁に固定したミャジはそのまましっかりとスコープ越しに海竜に狙いを合わせる。
「・・・風の理力(ストームフォース)」
呟くと弓とその鏃から火花が散るような僅かなスパーク音が鳴り出す。弓はその長大さに見合う力を蓄え、放たれる瞬間を今か今かと待ち構える。
ゴーグルに搭載されたディスプレイに「lock-on」の表示が出ると同時に、長大な弓が唸りを上げた。
「フォースブレイク・・・スナイプ!」
弓から打ち出された矢は閃光となって飛翔。刹那の間に海竜との距離を零にし弾着した。一拍置いて落雷のような轟音が眼下の海から外輪上まで届く。商船の乗組員達は何事かと回りを見渡していたが、近づいて来る衛士団の船に助かった実感が湧いたのか、甲板にヘタリ込む者も居る。
その様子を見て、ミャジは排熱部から煙を吐き出す弓を待機状態に戻し、風の理力を解除した。
「終わりましたよ~」
ふにゃりとでも擬音が付きそうな笑顔でユナティの方に向き直ったミャジに、当のユナティはなんとも複雑な顔をした。
「本当に、狙撃の腕は非常に高いのに、君はどうして普段の行いや態度をだな・・・」
ああこれは結局説教ルートかとミャジが諦めて聞きに徹する構えを取ろうとしたところ、2度目の邪魔が入ることになった。
「歓談中失礼します!副団長!例の作戦の件でトーラさんとギブさんがお呼びです!」
先程の轟音でここに居ることに気付いたのか、魔法戦士団の一人が、ユナティを呼びに来た。ミャジはその報告に出た名前にピクリと反応をする
(トーラって“あの”トーラちゃん?って事はもしかしてJBの兄さんやダンさんも噛んでたりしたりして・・・!)
「む、分かった。直ぐに行こう。ミャジ、話の続きは後ほどサロンの方で・・・」
「いやいやユナティちゃん、私もそろそろ戻ろうと思ってたし、道すがらで大丈夫よ」
言うが早く、ミャジは伝令に来た団員の背を押して歩き始めた。ユナティは怪訝な顔こそしたものの、優先度は突入部隊の話の方が高いと判断したのか特に言及はせずに二人の後に着いて行く。二人は気付かなかったがミャジのルビーの様なその瞳には爛々と好奇と興奮の光が宿っていた。