自室へと戻り、上着を脱いだロスウィードは、長い溜息と共に天を仰いだ。
「胃が痛い・・・」
元々彼は雇われ軍人である。指揮の腕も単純な戦闘力も一流であり、拾ってくれたヴェリナード王家に報いたいと言う気持ちも強い。
しかしである。
「奔放過ぎるぞレヴィヤット・・・」
そう、責任感以上に頭を抱えているのは冒険者を纏める事であった。
そもそも冒険者がこれほどの大所帯で行動する事が稀であり、このレヴィヤルデには特に濃いメンバーが集まっている。彼の気苦労は推して知るべしである。
「いや待てよ。私は先程休めと言われた。それにここには奔放過ぎる気がするコンシェルジュも、怖い副司令の目もない訳だ・・・」
はたと気付いた。今なら羽目を外しても大丈夫じゃないか?それくらいの仕事はしている筈だ。思考を巡らせながら、ロスウィードは衣装棚の方へ歩いていく。そして数歩後に彼は決意を固めた様に顔を上げる。
「よし、これより休息に入る!」
何とも気の抜けた宣言と共に彼は衣装棚を開くと、1着の服を取り出した。
ふわりと羽の様にその緑の衣に腕を通す。着慣れた服には白く華やかな花が散り全身で常夏を表現している。王者のマントの様にその衣。「南国のシャツ」を纏ったロスウィード。いつの間に履き替えたのか。下半身には燃える太陽の様な赤から鮮やかな黄色へとグラデーションして行くズボン「アロハな海パン」へと変わっていた。ズボンにもまた白い花が散っている。ロスウィードが全身で夏を満喫していると言っても疑う人間はいないだろう。彼の堂々とした佇まいはその姿とミスマッチであり、パシャリと光るシャッター音とフラッシュはここが攻城戦に向かう潜水艦の中であると言う事を忘れさせる
「ふう、やはりこの格好は落ち着くな・・・」
普段では絶対に口に出さない様な独り言は、自覚がなくとも疲労で油断していたからだろう。ロスウィードは最後に残った帽子を棚に掛けると、そのままベッドに倒れ込み・・・気付いた。先程、自分しか居ない筈の部屋にフラッシュとシャッター音がしなかっただろうか?そもそも自分は自室の鍵を閉めていただろうか?
背筋に走る悪寒と闘いつつ、ロスウィードは顔を自分が先程入室した扉の方に向ける。
桃色の髪の優男が柔和な笑顔で立っていた。レヴィヤット側の魔術部門責任者であるブラオバウムその人だ。
「こちらの書類、責任者のサインがどうしても必要だったので、おやすみ前に伺いました。」
「あ、ああ。それは悪かった。直ぐに目を通すよ。」
ロスウィードは受け答えしつつ高速で思考を巡らせていた。今重要なのは書類ではない。ブラオバウムがカメラを持っていないならば、先程のシャッター音の正体が何処かにいる筈なのだ。
そこで、ブラオバウムの背に隠れる様に黒い小さな羽に気付いた。おそらくかいりから借りたカメラで
「二重照明呪文(バイミーラ)」
ロスウィードの思考はブラオバウムが突如放った呪文で強制的に中断された。
咄嗟に顔を庇ったが、目を開くと既に1人と1妖精の姿は無い。即座に部屋から飛び出すロスウィード。
どう言う手を使ったのか。彼の服は既に司令官としての戦闘服に戻っている。だがそんな事をしても写真の前では意味がない。視界の端に走り去るピンク色の髪を見つけたロスウィードは猛然と走り出す。
「こんな面白い情報、簡単に渡さないから!」
ブラオバウムの肩にのった黒い妖精ぱにゃにゃんは矢継ぎ早に火球呪文(メラ)を飛ばす。さながらメラストームの如き連弾であったが
「その程度!」
素早く腰に刺した二振りのプラチナソードを抜き放つと荒々しい乱舞で火球を撃ち落とす。バトルマスターの奥義「天下無双」狭い通路において片手剣のそれは防御手段としても驚異の性能を発揮する。
ロスウィードは駆ける。あの写真は他の冒険者に見せる訳には行かない。特に先行しているであろう副司令官に後々見付かった日には・・・考えたくもないと。かくして始まった大捕り物は、暇を持て余していた冒険者達を巻き込んだ騒動に発展するのだが、それはこの時点のロスウィードには知る由も無い。
騒ぎを聞きつけた羅刹(りょーこ)が襲来するまで、後半刻の出来事であった。
勝手ながらオセアーノン襲撃後から空白の2日間について妄想してました。如何だったでしょうか?
そもそもは上の写真。ソウラ座談会でロスウィードさんが「怖い副司令が居ないので全力でダラけます」と言った所から話が始まりました。Q&A等参考にさせて頂きましたが、補足が有りましたらコメント等で連絡下さい。
他にも何個か書いてみたいなと思うネタは有るので、機会と気が向いたらまた書こうと思います。ここまで読んでくださった方々、ステキなネタを提供してくれる突入部隊の面々に感謝を。ありがとうございました!