「あ、これ・・・」
見覚えがある表紙。随分読み込まれていて、くたびれている。人によってはボロボロと評する程のそれは、しかし一目で大切にされているのが分かった。
「あ、それはねーかいりの宝物なの!」
ユウリが落ちていた本を手に取っている事に気付いたマユミが耳打ちする。
「そーそー、その絵本や伝説に憧れて、この子は英雄になるって言ってるの。可愛い所あるでしょ?」
「ちょ、ぱにゃ!?」
慌てたように連れの妖精達を見るかいり。自身の夢に一点の迷いも曇りもない彼女でも、他人に夢を暴露されるのは何処から気恥ずかしいのか、普段より少し頬に朱が差している。
「ん、ありがと、えーっと・・・」
「あ、その・・・ユウリ・・・です・・・」
手を出しつつ、名前を呼ぼうとして、まだ知らない事に気付いたのか、言い淀むかいり。それをさっして、恥ずかしげに自己紹介をするユウリ
「うん!私はかいり、こっちの二人がぱにゃにゃんとマユミね。でも、船酔いや体調不良じゃなくて良かったわ!本、拾ってくれてありがとうね」
そう言って本を受け取り笑ったかいりは、あっさりと自分の寝床に向かって歩き出す。
「あっ・・・」
伸ばしかけた手が止まる。
怖い。
もっと話しをしたい。
気持ち悪いと思われたくない。
2人の妖精とどうやって仲良くなったのか聞きたい。
嫌われたくない。
私が好きな伝説の話も聞いて欲しい。
傷つきたくない。
相反する二つの気持ちが入り乱れる。乱気流のように流れる思考。離れていくかいり。手を下ろしそうになる。そう、こうすれば傷付かなくて済むと、自分に言い聞かせるように・・・瞳を・・・閉じて・・・
『ーーーーーーー』
・・・太陽の声が聞こえた。
「あ、あの!」
瞳を開く。喉を震わせ、声を出す。あの日の。自分の運命を照らしてくれた、あの太陽の勇者様に、誇れる自分で在りたいから。
「ん?まだ何か落としてた?」
振り返ったかいりの視線。また少し怯んでしまったけど、もう恐怖は無かった。
「わた・・・私も伝説とか・・・伝記が好きで・・・その・・・勇者と盟友の話も読んでて・・・」
顔は真っ赤で、しどろもどろで、それでも、自分の好きを伝える事に嘘はつきたくないから。真っ直ぐに一直線な言葉で
「だから・・・えっと、私は・・・悪魔の子の勇者の話が好きで・・・」
「本当!?」
急に肩を掴まれて、驚いて顔を上げる。目の前には、これ以上ない程顔を輝かせるかいりが居た。
「それってアレよね!?最近鳥紋勇者伝との関係性が有るかもって話題になった!」
「そ・・・そうです!発見された時代背景は違うのに、話に符合する点が多くて!」
「あれは驚いたわよね・・・あ、因みに人物だと誰がすk「悪い方の将軍が大好きで!」
堰を切ったように話し始める2人に、隣にいたぱにゃにゃんはやれやれと首を振る。
マユミの方はかいりの横でジェスチャーをトレースしている。
「何々?何か面白い話?」
声を聞きつけたのか、他所で話していた他の冒険者も話に混ざる。とことん冒険者という生き物は、『楽しさ』に弱いのだ。
そんな冒険者たちの好奇心に満ちた笑顔に、あの日の太陽のような笑顔をユウリは幻視した。
船の天井を、その先の空を見るように天を仰ぐ。そうしてユウリは祈る。自分を照らしてくれた太陽を想って。
(私はあの日、ソウラ様に心を救われました。だから今度は、私がソウラ様を助ける番・・・!)
深い水底をレヴィヤルデは進む。戦いに向け、強い決意を。その先の名声を。友への想いを。それぞれ想いを載せて艦は夜の海を行く・・・
以上です。自分の出来るシリアス成分はこんな感じ。ユウリさんにソウラが何と声をかけたかはまだ分かりません。でも、それはたしかに彼女の心の一番大事なところで燃えているんじゃないかな・・・と思います。
ここまで読んで頂き、ありがとうございました。