今回と次回の魔法についての解釈は筆者の独自解釈と妄想が多分に含まれています。
「まず、解説の前に二つ質問をさせて頂きますね。」
いきなり解説されるのかと身構えていたかいりはまさかの切り口に肩の力を抜く。
それを無言の肯定と取ったブラオバウムはかいりに対してそのまま質問を投げかけた。
「前提として、かいりさんは魔法の心得、もしくは知識をどの程度お持ちでしょうか?」
「知識はそれなりにあるわよ!何しろ魔法って言ったら伝説とは切っても切れない関係だもの!カルベローナの伝説とかすっごいわよね!」
元気良く答えるかいり。その勢いはしかし何かを思い出したのか萎んでいく。
「でも実践の方はまるでダメ。才能というか、向いてないって散々言われたわ。」
掌の上で魔力を転がすが、一向に呪文として固まる事はない。それを見てブラオバウムは一つ頷いた。
「それでは、このブラオバウム。少々ご教授させて頂きます。」
かいりも思わず背筋を伸ばす。力強い声ではないが、ブラオバウムの声にはそんな不思議な力が感じられた。
「かいりさん。ビックバンはご存知ですか?両手剣を使う剣士の奥義の一つですが。」
「えっ?ええ勿論あたしも使える技だけどそれがどうかしたの?」
いきなり魔法から逸れた質問に困惑したように答えるかいり。それにはあえて答えずにブラオバウムは話を進める。
「ビッグバンとは、周囲や敵を爆発させる技ですが、ではこの爆発は何処からやって来たのか?」
うんうんと頷くかいり。乱戦時に周囲を吹き飛ばす。外殻が硬い相手を内側から爆砕する等、扱いは難しいものの優秀な技の一つだ。かいり自身も何度も助けられている。
「結論から言いますと、ビックバンもイオナズンも元は同じ力を使っています!」
ドン!とでも擬音が付きそうな勢いで断言するブラオバウム。
「いやいや、幾ら何でもそれは無茶苦茶過ぎるでしょ。」
思わずツッコムかいり。魔法が使えない理由を聞いたのに、これではまるでもう魔法が使えているようではないかと。
「所謂特技として分類される物と、魔法と呼ばれる物はどちらもマジックパワー。MPや魔力と呼ばれる物を消費して放ちます。これはご存知ですね?」
「流石に私も冒険者だもの。それぐらいは知ってるけど、魔力を使ってるから同じって言うのは乱暴すぎない?」
かいりの疑問はもっともで、魔法は詠唱と呼ばれる準備を行い、その後力を発現させる。一方特技は使おうと意識したその瞬間に発動するものだ。
「勿論区分としては別物ですが、根本は大きな違いが無いのですよ。例えばかいりさんはビックバンを使うときどうやって使いますか?」
再びのブラオバウムの質問に、改まって考えてみたことは無かったそれを頭の中で俯瞰的に見返す。
「こう・・・ぐぅ~っと溜め込んで、どっかーーーーん!みたいな感じね!」
ドヤ顔で擬音混じりの説明を口にするかいり。相棒たる黒い方の妖精がいれば厳しいツッコミをしたのであろうが、ブラオバウムは頷くだけであった。
「かいりさんの言うように、主に特技と分類される物は殆どの場合は直感的に使う物で、いざという時に即座に使えるのが強みです。」
そう言いながらブラオバウムはおもむろに自らの杖を取り出す。
「一方で魔法というものはですね・・・ちょっと実践して説明した方が分かりやすいでしょう。」
「・・・へ?」
思わず間の抜けた声を出すかいり。この優男は何と言った?実践?そんな混乱しているかいりを他所に、ブラオバウムは瞑目し集中を始める。かいりでも全身が総毛立つ程の魔力がブラオバウムを中心に渦巻き、収束して行く。杖で一つ床を叩くと、澄んだ音と共に夥しい数の魔法陣が現れる。見る者が見れば卒倒するような緻密な魔法陣の上でブラオバウムは呪文を紡ぐ。
「イオグランデ・・・!」
昏き深海を行く艦の一室で眩い閃光が煌めいた。