かける・駆ける・翔ける。
最初は歩いていたかいりは、気がつくと早足に、そして今は艦内を疾走していた。
目指すのは外へと続くハッチ。何人かの冒険者とすれ違ったものの、目に入らないとばかりに、いや実際今のかいりには見えていないのだろう。全速力で艦内を走り抜ける。
ハッチへと続く梯子がある部屋は、退屈していた冒険者が集まっていた。それを視界に収めたかいりは、減速するどころか笑みを深めて更に加速する。
「お、かいり~そんな全速力で走るとあぶげらぁ!?」
話しかけて来たラックシードを跳び箱の要領で跳び越える。
続くライトアップの肩とライオウの肩を次々と使い更に加速飛び石の様に跳ねていく。
天井を足場に反転すると空いた空間に飛び降りる。
目の前で唖然としてるユウリの手を取りクルクルと回り。
「あわわわわわ!?かいりさん!?どうしたんですかぁ!?」
集中する視線が恥ずかしいのか、それとも繋いだ手から伝わる温もりが恥ずかしいのか、真っ赤になるユウリを見て、かいりは優しい笑みを浮かべる。
「君!少しは淑女として慎ましくぅううううう!?」
見かねて近づいて来たテルキにユウリをパス。目を回し頭から湯気を上げるユウリと慌てて支えるテルキの横をすり抜けるように駆け出し再び加速。
「ハハッ!」
一つ楽しげに笑ったかいりはスライディングでフルートのマントの下を潜り抜ける。
跳ねるように上体を起こし、そこから踏み込み、壁、そして梯子を三点飛びの要領で跳び上がる。
ハッチへの昇降梯子へ入ったかいりは意味もなく溢れる笑みを隠す事もせずに薄暗い通路を壁蹴りのように一気に昇っていく。ブレイブグリーブで梯子を蹴る度に鳴る軽い金属音すら心地が良い。
「どーーーーーーーーーん!」
蹴破る様に船上に出るハッチから飛び出した。そのまま空中で猫の様に身体を捻り、華麗に着地・・・をしようとして盛大に滑って転ぶ。
「あっはっはっはっは!海水で船上が濡れてるの忘れてたわ!」
大の字に寝転がり空を見上げながら、誰に言うでも無く1人笑い転げる。
静かな潮の音色を聴き、潮混じりの澄んだ空気を胸いっぱいに吸い込む。
眩い太陽に掌を翳し、透けて見える真っ赤な血の流れをみる。
「剣だけで世界を救った勇者が居る。」
翳していた掌を握り立ち上がる。
「全ての職業を極めて、神様を認めさせた勇者が居る。」
背負っていた愛剣『オートクレール』を鞘から抜き放ち、正眼へと構える。自らの手足と言える程馴染んだそれは、かいりを鼓舞する様に光を反射している。
『お姉ちゃんは愚直だね』
妹と暮していた時に言われた言葉。決していい意味だけで言ったのでは無いだろう。
それでも。そう奮い起つ様に水平線を見つめる。
「ハッ!上等じゃない。アタシも何処までも進むだけよ!誰もが認める英雄って言われるくらい強くなってやるんだから!」
高らかに宣言する。誰かに出来たのならば、私に出来ない道理は無いと。そうして辿り着くであろう未来の自分の背に届けと。
「そこで待っていなさい!アタシの伝説はまだ始まったばかりなんだから!」
それは未来への啖呵。英雄を目指す少女の瞳は、真っ直ぐに未来の自分の背を見据えていた。
まさかここまで長くなるとは思っても見ませんでした。それもこれもかいりとブラオバウムと言う魅力的なキャラのお陰でしょう。私も書いていてとても楽しかったです。ここまで読んでいただいた方は本当にありがとうございました。