こちらは、蒼天のソウラの二次創作です。実際の漫画のシナリオ、キャラクターとは相違点や矛盾が有るかも知れませんが、ご理解の上お進み下さい。
使わせていただいた真の太陽の方で、不快感や修正点など有れば直ぐにご連絡下さい。可能な限り早く修正・削除等対応します。
ルシナ砦。海岸線を遠方に臨むこの砦は、魔族の軍勢の一角『太陰の一族』からウェナ諸島への侵攻を妨げる重要拠点だ。もっとも、ここを利用する『真の太陽』の者たちは冒険者の集団であるからか、戦場特有の緊張感とは縁遠い、まるで酒場のような活気と笑い声に包まれた拠点になっていた。
そんなルシナ砦の一角、2人の男達が組手をしている。
「そこ!また流れに淀みが出来てるよ!」
ウェディの男性『ヨンチィ』が向かってきたプクリポの足を跳ね上げる。
「うわ!?あだ!」
そのままくるりと天地が逆転したプクリポはヨンチィの脇を通り過ぎて、数度転がった後、仰向けで倒れ込んだ。
「くっそー!また俺の負けかぁ!」
転がされたプクリポの少年、正確に言えば『今は』プクリポの少年であるソウラは、空を見上げ悔しげに叫んだ。
「間合いを意識し過ぎて、普段より引いた場所で回ろうとしていた。相手が達人で有れば、アッサリ一撃を捩じ込まれるぞ。」
ソウラの剣術指南役が板についたオーガの男性『キャンピオン』が先の組手での失敗点を告げる。それにソウラがあれこれ質問を返し、実際に見せて説明するのが、訓練でのいつもの流れになっていた。
「残心までの流れも意識すると良い。加速するだけではなく、時に止まる事も考えれば、より緩急が生まれる。」
得意の回転斬りからいくつか技を繋ぎ、最後にゆったりとした動きでの残心をやって見せるキャンピオン。その動から静の流れはソウラがゲームの世界に来て始めて目にしたそれと同じように無駄が無い。盗賊としても腕を磨いていた彼の剣術は見た目に反して繊細で流麗である。
「よっしゃ!もう一戦組手を頼むよヨンチィ」
一通り質問とお手本を見たソウラは、再び戦鉈を構える。
「構わないよ。レイダメテスの巡回予定も無いし、太陰の一族の襲撃でもなければとことん相手してやる。」
爽やかな笑顔で拳を構えるヨンチィ。それを見てふと気になったソウラは、一度上げた戦鉈を下げ、ヨンチィに疑問をぶつける。
「そう言えば、ヨンチィはなんで拳を使おうと思ったんだ?それだけのセンスがあれば根や爪みたいな武器を使っても十分に戦えるだろ?」
「そりゃまた直球な質問だなぁ」
ソウラの直球過ぎる疑問に頬を掻き困ったような笑顔を浮かべる。
そんな彼が扱う獲物は自身の拳と投げ。必然、武器自体の攻撃力やリーチの長さで不利になる。それも一度の失敗が即死に繋がる戦争の時代にそれを自らの武器にする事は相応の覚悟が必要な行為だ。
「向いてたってのが一番の理由かな。武術なら手加減も全力も調整しやすいし・・・」
あんまり深く考えた事無いな!と笑うヨンチィ。しかし、彼の穏やかな笑顔が陰る。
「勿論、考えた事がないわけじゃ無いんだ。あの時、槍ならアイツのフォローが間に合ったんじゃ無いか、あそこで棍なら後衛に敵を通さずに止める事が出来たんじゃ無いかって。」
ソウラも思わず息を呑む。ヨンチィが纏う雰囲気から、ここが戦争の時代である事を嫌でも思い出す。
明日死ぬ事だって有り得る。むしろそれが当然の日常。戦争というのはそういうものだと。
「悪い、辛気臭くなっちまった!どうだソウラ?折角話したんだし、俺の拳法も少しやってみないか?」
「えぇ!?良いのかよ自分の磨いた技をそんな簡単に教えちまって!?」
思い付いたとばかりにアッサリ出された提案に思わずソウラは仰け反る。冒険者が自分の戦い方を伝授すると言うのは、飯の種をそのまま伝えるという事。すなわちライバル業者を増やす事と同義だ。
「良いも何も、手札が増えれば戦場で帰ってこれる可能性が上がるだろ?」
「そうだな、格闘技であれば、武器を振り回し難い乱戦時や、そもそも手元に武器が無い時の手段にもなる。覚えておいて損はないと思うぞ?」
それは、時代と感覚の違い。同じ冒険者の空気を持ちつつも、生きる事が至上となる戦争の気風。それを敏感に感じ取ったソウラは、構えていた戦鉈を丁寧に石垣に立て掛けると、見様見真似で拳を構える。
「へへっそれじゃあ、お言葉に甘えて1つご教授願おうかな。」
ニヤリとお互いに笑い合うソウラとヨンチィ。
「それじゃあ、まずは基礎の型から始めようか。」
こうして、突発的なヨンチィによる武術教室が始まった。