「はい!またまた流れに淀みがあるよ!」
既視感のあるヨンチィの声とともに宙を舞う毛玉。否、ソウラが本日何度目かの地面との接吻を決める。
「っつぅ~ちょっとは手加減してくれよ。」
こちらも何度目かの空を見上げての憎まれ口。型の基礎は早々に実戦で体に覚えさせたほうが早いと言うなんともスパルタな理屈で、ここ3時間ほど休憩を挟みつつソウラは投げられ続けていた。
「やはり、不思議だな。」
訓練の様子を見ていたキャンピオンがボソリと呟く。ソウラの姿にまるでなにか別の姿を重ねるように。
「前々から疑問だったんだが、新入り君の踏み込みや重心の移動が、プクリポにしては随分と前のめりだ。まるで背中に触覚があるような、そう、ウェディの体重移動に似ている。」
その言葉にソウラは心臓が跳ねる。何という観察眼か。会ってから数日で、しかもホルヘイズ曰くゲームによる補正もあると言うのに、核心を突いたキャンピオンの観察眼にソウラは舌を巻く。
「なんか教えてて違和感あったのはそれか。その癖動きは結構な修羅場を潜った開き直り方してるから違和感が凄いんだよな。」
話を聞いて納得したようにヨンチィまでそんな事を言い出す。どう誤魔化すか考えていたソウラの元に正に天の助けのように新たな声がかかる。
「あーズルい!ヨンチィ達、2人で新人君の相手してる!」
見つけたとばかりに上段の石垣から身軽に降りてくる2人の人影。1人は純白の衣装に嫌味にならない上品な金の装飾を纏ったエルフの女性『のと』とこちらも踊り子らしい見栄えが良い衣装を着たドワーフの男性『ワッサンボン』2人は文字道理舞うように数段の石垣を降りる。
「ねーねー新人君もワッサンボンとのコンビ技やろうよ!派手な技も楽しいよ?ワッサンボンに大空にポーン!って飛ばしてもらってさ!」
「え、あの技今度は2人でやるの?本当に?と言うか、僕達はちゃんと用事があって・・・」
ワッサンボンぼ言葉を待たずのとはソウラを拾い上げる。儚きかな、プクリポの体重では女性でも軽々と持ち上げられてしまう。
「2人ともー!本題忘れないでよー!」
そこに遅れてやって来たのは真の太陽の料理人『セレン』パタパタと走ってくる姿が朗らかだ。最も、年齢の話とご飯を残す相手にはその限りではないが。
「ご飯の用意が出来たから、皆を呼んできてって言ったのに、2人とも訓練に混ざろうとしてー!ちゃんと食べないと怒るよ!」
普段から甲斐甲斐しく皆の世話を焼くセレン。もっぱら被害に遭うのは碌に食事を摂らないゼタなのだが、彼でなくともセレンは食事と休息をないがしろにする仲間には容赦がない。
「僕は巻き込まれただけなのに・・・」
のとを諌めようとしていたワッサンボンは完全にとばっちりを受けた形でガックリと首を落とす。
「それじゃあ、訓練は切り上げて飯にするか。ソウラ!今日教えた基礎の型の練習忘れるなよ!」
言うが早く食堂に向かって駆け出すヨンチィ達。慌ててソウラも追いかけるが、プクリポと他の種族では、歩幅の差があるせいでどんどん距離が開いていく。
「大人げねーぞ皆ぁ!」
思わず叫ぶソウラを振り返り真の太陽の面々が笑う。それは、過酷な戦争の時代でありながら強く生きる人々の表情で、同時にソウラが良く知る冒険者達の笑顔でもあった。
「それじゃあ、最後だった奴がおかず一品譲るって事で!」
「あ、良いねぇそれ!」
「それは、負けられないな。」
「ゴメンねソウラ君、でも私も盛り付けが残ってるからさ!」
「申し訳ないけど、食事が掛かってるなら負けられないな」
だが冒険者達は時に薄情者でもあった。
「そこは立ち止まって待つところじゃないのかよぉ!?」
ソウラの悲痛な叫びと皆の笑顔を、蒼天に輝く本物の太陽が照らしていた。
(実戦で使うのがこんな後がない状況になるなんてなぁ)
多数の魔族の軍勢と、その背後から強烈な剣気を発するマリクを柱の上から見下ろし、ソウラは内心冷や汗を垂らす。
状況を切り抜けるにはあまりにも出来過ぎと思える程、ヨンチィやキャンピオンに教えられた体術がおあつらえ向きの場面だった。無論こう言う場面で対応できるようにする為に学んできたのだが。
「では只の敵として処理する・・・死ね。」
「ですよねぇっ!!!」
猛烈な殺気の嵐に身1つで漕ぎ出す。過去を照らした『真の太陽』の志を胸に灯し、今現代の太陽が満月の軍勢へと飛び込むのだった・・・!