「それじゃあ改めて!ロスウィードさんの誕生日パーティーを始めたいと思いまーす!」
元気よく宣言したのは大きな角の髪飾りが目立つ少女『ソメイ』
片手に持つのは彼女が憧れる相手から贈られた一品である型紙。部屋の隅にも同じ物が複数貼り付けられている。コダマと言う古い呪文が編まれたそれは、発信元から複数の型紙に声を送る事で、即席のマイクとして利用されていた。
「まずは私のプレゼントから!トリックオアトリート!!!」
彼女が叫ぶと天からはお菓子が降り注ぎ、魔法のように机の上に料理が並ぶ。サンドイッチやハンバーガーと言った物を降らせて、いくつか空中分解するハプニングも有ったが、それもまた愛嬌だ。無論、それ魔法ではなく大道芸の一種。言ってしまえば手品の類いだが、こう言った場を盛り上げるにはうってつけだ。
彼女の他にも、あの作戦で表立って戦った者達や裏方で物資の支援を行った者達と言った様々な人々がロスウィードの為にこの部屋に集まっており、各々持ち寄った料理を取り出している。プレゼントも兼ねているのか、オーガの大男『ライオウ』が引き連れた者達が珍しい食材や素材を運び込んだ時は会場が大きくざわめく場面も見られた。
そうして出された料理に舌鼓を打ちつつ、主役であるロスウィードの所には参加者が挨拶や冷やかしで何人も訪れる。
誕生日なのだから当然だが、皆個性的なプレゼントを持ち込んでいた。
「いやーロスウィード殿もお人柄が悪い!もっと早く誕生日を知っていればより良い素材から調合したものを用意できたのですがな!」
そう言って品の良い瓶に詰められたコロンを贈ったのは僧侶である『テルキ』
渡す直前に自分の服の裾を踏んで盛大に転んだのだが、直前に察知したエルフの女性『アヤタチバナ』が瓶をキャッチした為、盛大にぶちまけられると言う大惨事は回避された。
「よーし!じゃあここはロッシーの誕生日を祝してぇ!金のギガボンバーを進て・・・」
真っ赤な顔でゴソゴソと袋を漁り始めたマージン。直後にフツキがやらせないとばかりに縛り上げる。
「クリア」
キメ顔で言ったセリフ。最も、縛り方が何故か亀の甲だった為に顔を真っ赤にして黄色い声を上げる女性陣が居るという二次災害が発生したが。よく見ればフツキの顔も赤味がかっていたので、彼も酔っていたのであろう。
なお、マージンとフツキから正規の贈り物として短剣が贈られた。
そうして何人かの相手をしていたロスウィードだったが、ふと気付き側に控えていたクレアに声を掛ける。
「そう言えば、アスカはどうしたんだ?この様な催しに、しかも城内の会議室を使うなど真っ先に反対されそうだが。」
朝連絡してきたウェディの彼女の姿が見えない事に疑問を持つ。
「アスカ様でしたら、王都一級店のプリン3皿を今頃堪能しております。」
辛く苦しい交渉でしたわなどと、目元を拭う仕草をするクレアを見て、何とも微妙な表情になる参加者とロスウィード。
なお、アスカからは祝いの祝電とプレゼントがきっちり用意されていた。何だかんだとマメな彼女らしく、ロスウィードは苦笑する。
そんな彼の元におずおずと2人と1匹が近付いてくる。
「あ、あの!ロスウィードさん!これ、私からの誕生日プレゼントです!」
そう言って小さな包みを差し出すのは今回の主催のみなゆり。そしてそれに付き添う形でやってきた彼女の連れであるプリズニャンのそーめんと、友人であるソメイだ。
ロスウィードが包みを開けると、中から顔を出したのは猫のイラストが入ったマグカップ。
他の参加者が色物が多い中、素朴なものを渡すのが恥ずかしいのか、みなゆりの顔は朱色に染まりきっている。
受け取り暫しそのマグカップを見詰めるロスウィードにみなゆりは不安そうに声を掛ける。
「あの、何かお気に召しませんでしたか?」
「まさか。とても良いものだとも。」
そう言って、みなゆりとソメイの肩に手を置くロスウィード。アストルティアに来て、これ程多くの人に祝われた誕生日は初だったと。
「2人がこれだけのパーティーを開いてくれたのだろう?とても感謝している。嬉しいとも。」
時に、ロスウィードと言う男性は、端正な顔立ちをしている。そんな彼が、肩に手を置いて、穏やかな笑顔で感謝を述べる。するとどうなるか。
「む?2人ともどうしたんだ?」
ロスウィードがふと気付き声をかけるが、返事が無い。何故か。みなゆりもソメイも朱色を通り越した真っ赤な顔で、顔から湯気を上げて目を回していたからである。
「あーこれはダメにゃ。ご主人もソメイさんも、完全にキャパシティオーバーしてるにゃ。」
そーめんの冷静な診断に、面白がって周囲で様子を見ていた冒険者から笑い声と生暖かい視線が贈られた。