アレスの元へ援軍が駆けつける。数刻前。
ジュレットの街の只中も、戦闘の激化が始まろうとしていた。
「ミャジさん!最後の一発です!」
みなゆりの報告にミャジは引き攣った笑みを浮かべる。
この痺れ砲弾が最後という事は、即ちこの拘束が解ければ、今度こそネブドとの直接対決になると言う事。
「くぅ・・・間に合わなかったかぁ・・・」
思わずそんな呟きが漏れる。だが、手を休める事など許されない。ここで食い止めねば全ては終わってしまうのだから。
「残った火力を集中!とにかく削れるだけ削って~!」
指示を飛ばし、矢を飛ばし。
遂に巨人が地に伏すことはなく。
ネブドはゆっくりと動き出す。
懐に手を伸ばしかけたミャジは、しかしそれをやめ、油断なく弓に矢をつがえる。
「見事だ。冒険者共。」
心底感嘆した様にネブドは言葉を紡ぐ。
その言葉こそ穏やかだが、それでいて動けば即座に反撃が来ることが想像できる程に隙がない。
「ッチ、余裕って顔しやがって・・・」
戦場でありながら敵を讃える言葉を吐くその様に、ヒューザは憎々しげに悪態をつく。
首を鳴らしたネブドは、自らの得物である両刃の槍を改めて構える。
「では、行くぞ。」
武器を構え、一言言葉を発したのみ。ただそれだけで、冒険者達に緊張と凄まじい重圧がかかる。
ネブドは手に持つ獲物をゆっくりと肩越しに構え、一拍力を込める。
「散会してください!!!」
ソメイの叫びに、咄嗟に横飛びに離れる冒険者達。
一瞬遅れて、肩越しに獲物を振り抜く。風切音と呼ぶのも馬鹿らしい程の音と凍て刺す様な冷気を纏いネブドの武器が飛翔する。
直前まで冒険者達が居た場所を通過したそれは、酒場である建物の壁に轟音と共に直撃し、白亜の壁に巨大な傷跡を残す。
『アクアスロー』水を纏わせた得物を投擲する。それだけの事が、ネブドの膂力によって一撃必殺の絶技へと変貌する。
「存分に楽しませて貰うぞ!」
一歩踏み出す。その後方からは再び侵攻を開始する海洋兵団の魔物達。
戦闘は更に激化の一途を辿る。
「追わなくて良かったのですか?」
ホーリーライトで形作られた槍を用いばけガニの爪を捌き、広域硬化呪文【スクルト】を味方への援護として放ちながら、ウェルデは声をかける。
それに対して、呆けたように目を丸くしたリュウガは、しかしすぐに笑顔を浮かべる。
「手助けなんて必要無いさ。今必要なのは俺の助力よりもここを片付ける事だからな。」
「いいねぇ!そう言う信頼なら、あたいも答えてやりたくなるってもんさ!」
トンボを切り、リュウガと背中合わせに着地したのは目元意外をスッポリと黄色い装束で隠したドワーフの女性。猛虎流に師事する彼女の名は『ユウナ』
「それじゃあもういっちょ行くよ!ドワ・・・着火ぁ!」
得物である棍を大地に擦り付ける様に振り上げる。すると、先端から吹き上がる様に焔が舞い、打ち据えたアクアメーバを瞬く間に蒸発させる。
「ウェルデさんも支援を頼むな!」
リュウガもまた二刀の剣を構え駆け出す。
友人を信頼しきっているその真っ直ぐな横顔を見て、ウェルデは笑みを浮かべる。姉の愚直ながらも眩しい笑顔と重なったから。
「私の場合はお姉ちゃんが無茶をして他の皆さんに迷惑をかけてないか不安もあるんだけど・・・」
姉の事だから倒した事をしっかり確認もせずにドヤ顔して、うっかり足元掬われるとかやらかしてるのでは無いかと、内心気が気では無い。
「あんたも心配な相手がいるのかい?」
耳聡く聞き付けたユウナが炎を纏った棍の一撃。『熱風なぎ払い』で敵を蹴散らし、ウェルデに声をかける。
「聞かれていたのですか!?」
聞こえていると思ってもみなかったウェルデは顔を赤くするが、その後に微笑みを浮かべる。
「そうですね。自慢で、とても心配な姉が一人。ヴェリナードの作戦に参加してます。」
「奇遇だな俺の冒険者仲間もその作戦に参加してるんだよ。」
敵から距離を取りつつ答えたのはリュウガ。脳裏には魔術の合成と言う難題に取り組む、桃髪の優男の姿を思い出していた。
「この3人は置いてけぼり食らった奴らの集まりだった訳だね!」
「と言う事は、ユウナ様のお知り合いの方もヴェリナードの作戦に?」
「ああ。よく笑って、よく鍛えて、そんでもって滅茶苦茶よく食べる。可愛い妹弟子さね。」
作戦の詳しい内容は分からない故、何処で何をしているかは分からない。
だが、この時彼等三人には奇妙な連帯感が生まれた。
「それじゃあそんな仲間の為にもあたい達は」
「先ずはここを守り通しましょう!」
「ああ!いくぜぇ!」
リュウガとユウナは再び魔物の群れに突貫し、ウェルデは呪文を紡ぐ。
友人、兄弟弟子、姉妹。
形は違えど大事な人達の活躍に報いる為に。