「どうやら上手くやったみたいだな!」
背後から感じる膨大な魔力の波動を感じたリュウガは笑みを浮かべる。
そんな彼の背後に忍び寄る影をユウナの棍が打ち据える。
「おっと!あたい達が油断するにはまだ早いみたいだねぇ!」
彼等の周囲に蠢くおびただしい数の軍勢は未だ健在。そう、彼らの居るジュレット上層は街の外であり、防衛結界の外。
だが、無限の軍勢。その供給の源は断たれた。
「それでは、わたくし達は殲滅戦と参りましょう。」
ウェルデが槍を構える。襲われた以上、逃してはいけない。何時彼らが軍備を立て直して再び戻るかなど分からないのだから。
「よっし!もう一働きと行くか!」
リュウガを先頭に三人が駆け出す。
双刃が閃き道を切り拓く。彼が一直線に目指すのはこの部隊の隊長格と目す『バナゴル』。分厚い魔物達の壁が次々に蹴散らされて行く。
殲滅戦である以上、目標は当然敵の全滅。だが、その中にも優先度は存在する。
「指揮官は真っ先に潰す。統率を乱す為には当然の作戦です。」
ウェルデが殿を務め、後方からリュウガとユウナの背を狙う攻撃を尽く彼女の輝く槍が撃ち落とす。
「ヘイヘイ!背中からなんてつれない事言わずにさぁ!正面からかかって来たらどうだいね!!」
ユウナが啖呵をきりリュウガに続く。
たった三人の冒険者を止める事が出来ない。その顔を驚愕で彩ったバナゴルに、リュウガが双剣と共に躍りかかった。
そしてジュレット内部。酒場前の広場。
そこでは膝を付いたネブドが全身から白煙を昇らせ、目は伏していた。
正しく戦闘不能と言った姿を前に、冒険者達は油断なく言葉を交わす。
「コレが君の仕込みか?」
「んー?まあ、ラズが頑張ってくれたお陰だね。」
そう、警戒を解いた訳では無かった。
「ラズさん!?じゃあミャジさんが酒場でダメって言ってたのは・・・」
「俺達にも黙ってたって訳だろ?性格悪いんじゃないか?」
そして、油断していた訳でも無い。
「そうですよ!私もうダメかと思ったんですよ!」
「いやほら、敵を騙すにはまず味方からって言うじゃ無い?」
だが、緊張の糸が切れてしまっていた事は否定出来ない。
故に、それもまた必然。
気付いたのはアレスだった。
ゴポリ
深淵から浮上した様な泡音。
不気味な気配に周囲を見回す。
普段で有れば、真っ先に目線を向けただろう。
だが、彼の中の『常識』が咄嗟の判断を遅らせる。否、視野を広げ過ぎてしまう。
防衛結界の魔力は魔族すら焼き尽くす程の威力を持つ。それに晒されている以上『動ける筈が無い』と
故に、伏兵の可能性。防衛結界が不完全に起動している可能性。海上にまだ残っているであろう予備戦力の投入。
あらゆる可能性を考えて視線を巡らせた。結果的に眼前に横たわる驚異への警戒が一手遅れる。
そして、その一手は致命的な『引潮』を許す。
目を伏していたネブドから凄まじい殺気が溢れる。
ここに来て、アレスは・・・否、冒険者達は自らの失敗に気付く。
即ち『無意識下の』『油断』『慢心』
防衛結界と言う、当初から目されていた勝利条件の達成。確かな結果が生まれたそれは、致命的な形で冒険者達へ叛逆の牙を剥く。
アレスが『アイギスの護り』を使い皆の前へ駆け出す。
ミャジが懐の『切り札』を取り出そうとする。
ヒューザが刃を振り上げる。
ソメイが風の魔力を練り上げ、相殺を狙う。
全てが間に合わない。
否、一つだけ間に合った物がある。自らの主人を守る為、そーめんは咄嗟にみなゆりを突き飛ばしていた。
そしてジュレットにもう一つの『海洋』が顕現する。冒険者達の隙。その間に作られた引潮【タメ】は、全てを飲み干す波濤となってネブドの足元より噴出する。
『ハイドロウェーブ』
ネブドが放った大技。溢れ出た激流の質量によって全てを薙ぎ倒し、圧し折る大津波。それが冒険者達を真正面から飲み込み、蹂躙する。
「そーめん!」
突き飛ばした自らの相棒にみなゆりが必死に手を伸ばす。
その手が届く直前、彼女達へと殺到した激流が2人を引き離す。波間へそーめんの姿がのまれると同時に、みなゆりも余波で吹き飛ばされる。
「きゃあっ!」
酒場の扉に背が打ち据えられ肺の空気が強制的に吐き出される。頭が、そして視界が回る。
それでも必死に足へ力を込め立ち上がる。
咽せそうな呼吸を抑え肺へ空気を送る。
そうして、未だ揺れる中何とか目を開く。
「あ・・・ああっ・・・ああああああ!」
みなゆりの視界に映った冒険者達は、その尽くが倒れ伏していた。
ヒューザが
ソメイが
アレスが
ミャジが
自らの相棒【そーめん】が
圧倒的な暴力によって。
冒険者達のPTは全壊した・・・。