この激突で遂に雌雄が決する。
即ち、『蹂躙』か『防衛』か
ネブドに悟られぬよう、木霊を用いて手短に策を伝えたアレスはその手に持った星屑の剣を『鞘に収めた』
「我が身に宿し魔力の奔流」
言霊がアレスの口から紡がれる。同時に始まる魔力の収束。ウェナ諸島沖の渦潮の如く、周辺の魔力が『純粋な魔力のまま』アレスの元へと集って行く。
「我が紡ぐは破滅の言霊」
詠唱は続く。大気が鳴動してると勘違いする程濃密な魔力にアレスの額から一雫汗が滴る。
「その様な大技、撃たせるなど!」
アレスの意図を察して猛進を開始する。
両刃の槍を携え、広場の床を踏み砕き走り出そうと。しかし、冒険者達もそれを指を咥えて見ているばかりではない。
「どニャー!!!」
巨体を活かしリベリオが体ごとネブドに激突する。
力強い重さ比べが始まるが、リベリオの巨体を持ってしても、ネブドの足は止まらない。
「汝が招くは究極の破壊・・・」
アレスの詠唱は第三節へと入る。一層集った魔力は紫紺の輝きを放ち、解き放たれる時を今か今かと待ちわびる。
「邪魔をするな!」
『刺突』己が武器を一直線に突き出すだけの単調な技が、しかしネブドの肉体から放たれる事によりリベリオの巨体すら浮き上がらせ、吹き飛ばす。
「足を狙え!」
「「ハイ!!」」
ヒューザの号令と同時に、みなゆりとソメイがネブドの懐へ駆け込む。刺突によって腕を伸ばし切っていた隙は、二人に迎撃を許さぬ突撃を敢行させる。
「足払い!!」
「ライガークラッシュ!!」
二人の技がネブドの巨木の様な脚を捉える。
膝が崩れ、前に倒れ込む。
「時の彼方に滅びし古の力、我が契を以て解き放つ!」
アレスの魔法が完成する。ネブドは崩れ落ちる最中、左腕を大地に叩き付け、その筋力だけでアレスへの距離をさらに詰める。
「アレス君!」
予想外のネブドの迫撃にミャジが咄嗟に警告の叫びを上げる
「全魔力解放!マダンテ!!!」
目前に迫るネブドを迎え撃つ形で、アレスの魔力が解き放たれる。
暴走した魔力が一瞬の縮小の後、轟音を伴い大爆発を起こす。
球形に広がる紫紺の爆発を、あろう事かネブドはその槍を用いて『両断』する。
「破ったぞ!!」
「囮をな!」
アレスの声がネブドの『背後』から響く。
ネブドは反射的に後方へ槍を振り抜く。
だが、その槍は空を切る。振り返ったネブドの視界に入ったのは『木霊の型紙』を持ち急上昇するソメイの姿。
(謀られた・・・!)
その事実に気付き、振り抜いた槍を凄まじい筋力で引き戻し、正面に向かって振り抜く。
否、振り抜こうとした。
嵐の様なメラゾーマが次々に着弾する。
それが、鉄壁の牙城の最後の壁を崩す。
ネブドは反射的に顔を開いた手で守り、視界を塞いでしまう。
一拍だが、ネブドの驚異的な反射に曇りをもたらす。
「「ミャジ!!!」」
アレスとラズの叫びは最後の合図。
ミャジは鳥面の様なゴーグル越しに、ネブドの姿をハッキリと捉える。
槍を持つ腕が伸び切っていなければ。もしくはネブドがミャジを視認する事があとコンマ数秒早ければ。それは『必中』にはなり得なかった。
だが、これほどお膳立てされて外しては。
「冒険者の誇りに傷が付くわ!!!」
【フォースブレイク・スナイプ】
虹色の光が流星となってネブドの肩を貫く。
「ぐうう!この程度の一撃で・・・」
「倒せないでしょうね。」
だから、とミャジは言葉を続ける
『切り札』は、最後まで懐に取っておくべきだよね・・・と。
ネブドに突き立った鏃。その刃先に何かが括り付けられている。
それは、ヴェリナードが開発した対魔族用の兵器の中でも飛び切り強力な一品。
瞬間、落雷を体内に直接流し込まれたかの様な衝撃がネブドの全身を貫く。
『金縛り札』
如何に強力な魔族であろうと、問答無用でその全身を麻痺させ拘束する。正しく『切り札』
さしものネブドも凶悪な威力の前に、全身を弛緩させる。
「総員全火力を集中!!!討ち取れ!!!」
一斉に冒険者達の攻撃が、技が、武器が、ネブドへと襲い掛かる。
みなゆりとそーめんの連携が全身を切り裂く。
ソメイの棍による乱打が腕を打ち据える。
ラズとマンマーの業炎呪文がその背中を焼き尽くす。
「肩貸せ!リベリオ!!!」
ヒューザの叫びに、リベリオは一瞬驚いた表情を浮かべるが、望み道理駆け込んでくる『二人』を、その筋力でネブドの眼前に打ち上げる。
「これでトドメだ!!!」
叫びと共に、ヒューザとアレスの剣を眩い雷鳴が包み込む
「「ギガ・・・」」
落雷となった二人が剣と共にネブドへ殺到する。
「「クロスブレイク!!!」」
交錯した二つの剣閃が、ネブドの両の腕を断ち切った。