成功に喜んでた気持ちが萎む、こんな簡単に成功したと言う事は、もしや自分は根本的な何かを失敗していたのでは無いかと。
「どうして成功したんですか?火薬の配合は弄ってないですよね?」
「あー・・・まあ言っちゃなんだが、火薬を扱うなら基礎中の基礎なんだ・・・」
気を使っているが、暗に『基礎が出来てない』と指摘されたも同然のギブは、予想が当たっていた事も相まって恥ずかしさに縮こまる。
その様子を見たマージンは慌てた様に説明を付け足す。
「いやでもだな!?ただの火薬玉とは言え独学で爆発出来る様に完成させるってのは凄い事だぞ!?」
「でも、一歩間違えれば大変な事になってたんですよね?」
言葉に詰まる。たかが火薬玉とは言え、火薬の配合次第では充分に凶器になり得る。『爆弾工作員』として、そこに嘘はつけない。
暫し考えたマージンだったが、思い付いたとばかりに手を叩くと、今度は非常に楽しそうな表情でギブにその顔を近付けた。
「じゃあこうしよう!俺がキミに爆弾の基礎知識を伝授する。基礎がしっかりしてればこう言う失敗も無くなるだろ?」
「ありがたい申し出なんですけど、僕達まだ駆け出しで持ち合わせが・・・」
しかしマージンは立てた人差し指を振ると、ギブの肩を掴んだ。
「俺が欲しい対価はお金じゃ無い。そいつの錬金レシピが欲しい!」
「こ、これですか?でもこれ、ただ光が出るだけですよ?」
「それが良いんだよ!良いか?瞬間的な目眩しとして使えばその効果は煙玉より高い。他にもこれに音や睡眠ガスを組み合わせる事が出来れば無傷での敵の無力化に使える。」
堰を切ったように熱弁を振るわれながら、肩を揺さぶられるギブ。
「素材を見る限り、そこまで高価な物は使ってない。使い切りのアイテムにとってコストパフォーマンスは切っても切れない関係だ。それをこの素材で用意できると言う事が!どれだけ!重要か!」
拳を振り上げ、言葉に宿る熱量と勢いが増して行く。爆弾を日々消費する彼にとって何やら琴線に触れたのだろう。
「それだけの価値がこのレシピには有る!だから俺はそれが欲しい!さあ!さあ!さあ!」
詰め寄るマージン。後ずさるギブ。
周囲の冒険者に視線で助けを求めるが、皆一様に目を逸らした。
そこへ、文字通り天の助けが割って入る。
「それぐらいにしろ!」
「ボンヴァー!?」
手刀一閃、脳天への一撃でマージンは悶絶する。
現れたのはエルフの青年。マージンと揃いのゴーグルの奥には理知的な切れ目の瞳が見え隠れする。
「今日は爆弾【しゅうきょう】勧誘か?爆弾馬鹿の次は宗教家か?弾けるなら爆弾くらいにしておけと何度も言ったよな!?」
「ま、待ってくれフツキ!今は真面目な話をだな!?確かに凄い物を見つけてテンションが上がったが!」
マージンを正座させ説教を始めるフツキと呼ばれた青年。
二人が話し合う事を暫し。
一応状況に納得したフツキはゴーグルを直すと、ギブに向き直る。
「スマン。迷惑をかけたみたいだな。俺はフツキ。一応こいつとPTを組んでる者だ。」
「僕はギブ。駆け出しの冒険者です。」
互いに頭を下げて挨拶を交わす。その上でフツキは改めてギブに切り出す。
「マージンの暴走を見た後じゃ胡散臭いかもしれないが『胡散臭いは酷いぜフッキー』ちょっと黙ってような?かもしれないが、俺としても君のそのレシピには非常に興味がある。」
良ければ交換条件を飲んでくれないか。
そうの問いかけにギブはとっくに決めていた答えを返す。
「こちらからお願いします。こんなチャンス、滅多に無いので。」
「それなら、ここからはお互い敬語は無しで行こう。交渉をする以上、対等な立場で居たいからな。」
「はい・・・じゃなかった。うん。それじゃあ」「それじゃあ早速レクチャーと行こう!さあしようそうしようグボん!?」
すぐさま始めようとしたマージンの首筋に針の様な物を突き立てるフツキ。二人の信頼関係の賜物か、その動きには躊躇が無い。
「こう言う奴なんだ。一晩宿で落ち着かせるから、明日からで大丈夫か?」
「うん、僕も仲間に説明しなきゃいけないし、そっちの方が助かるかな。」
「じゃあ決まりだ。明日の朝、この場所で落ち合おう。」
ぐったりしたマージンを引き摺りラッカランの人混みに消えて行くフツキを見送り、ギブは一息吐く。
手元の火薬玉を見つめてギブは独りごちる。
「明日からソウラとうりぽとは暫く別行動かな。」
二人の事だからラッカラン見物の時間が伸びたと喜ぶだろうか?喜ぶんだろうな。
その様子が目に浮かぶようでギブは一人笑う。
明日から頑張ろうと拳を握る。
彼の手に握られた火薬玉。
後に『試作レミーラ玉』と名付けられたそれが彼とその仲間達の命を救うのは・・・まだ先の話。