(っく、詰め・・・切れない!?)
技が、呪文が、その尽くが躱され、弾かれ、薙ぎ払われる。
押している。間違いなく攻めているのは自分たちの方。
(なのに、この悪寒は何よ!?)
正体不明の悪寒が付き纏う。このままでは不味い。
直感めいたその感覚にかいりはこれまで幾度も助けられて来た。
故にこそ、かいりは『大技』を繰り出す。
かいりの次への動き出しを見て、ぱにゃにゃんは目を見開く。
(ちょっとかいり本気!?それ人相手に撃つ様な技じゃっ!?)
引き止める言葉をかけるか一瞬悩んだ彼女だったが、相棒を信頼してるからでこそ、何より、かいりの横顔が敵を信頼している時のそれだったからでこそ。
「マユミ!」
「うん!烈空呪文“バギマ”!」
「連弾火球呪文“メラストーム”!」
呼び掛けだけでマユミと意思疎通を図り、先程までより大振りな呪文を練り上げる。次の攻撃までの隙こそ出来るが、多少強引にでもかげろうの体勢を崩す為に。
「うおっと!?」
さしものかげろうも、中級呪文の同時攻撃に一拍後手に回る。
たかが一拍。されど、それで良い
それだけあれば、かいりは決めると信じているから。
「おおおおおお!」
オートクレールが飛来する。
飛び上がったかいりは足から火花を散らし、かげろうの眼前に突き立った愛剣に蹴りを叩き込む。
「う~~~~~!」
かいりの唸り声と共に、周囲の空気が集束する。
それはオートクレールを中心に莫大な空気が一気に燃焼した事によって起きる事象。
そして、作り出された熱エネルギー。その全てを余す事なく炸裂させる。
「どっかーーーーーん!!!」
“びっくばん”
両手剣を扱う冒険者の奥義の一つ。立ち塞ぐ敵を焼き尽くし、吹き飛ばす爆風が風泣き岬に吹き荒れた。
並の冒険者であれば、近くで炸裂するだけで戦いが終わる。そうでなくとも、爆炎で軽くは無い傷や火傷を被る事になる。
無論、それは相手が“普通の”冒険者であればの話である。
音は無く。
ただ六回。剣閃が輝いた。
「冗談きついわよまったく・・・!」
剣を手に着地したかいりの頬から一筋汗が流れ落ちる。
ぱにゃにゃんは白目を剥き、マユミはあわあわと慌てながら飛び回る。
それ程非常識な光景だった。
「あつつ、もう!一張羅が燃えたらどうするんだ!まったく。」
未だ火の粉が上がる中から“刀”を携え歩み出るかげろう。背後に炎を背負って歩むその表情は逆光でかいりには窺い知れない。
「アンタ・・・爆炎を切ったの・・・ッ!?」
「うん?・・・そりゃ実体無いからって、切れない道理は無いだろう?」
事も無げに飛んでもない事を言い放つ。
確かに、かいりだってエレメント系の魔物を切る事はする。だが、あの不利な体勢から、焼き尽くそうと迫り来る爆炎を斬り払うなど、一朝一夕の訓練で出来る事ではない。
かいりもそれなり以上の経験を積んだ冒険者だ。
だが。いや、だからでこそ。
「ここまで底が知れないと感じた相手はあんたが初めてよ。」
「おや、まさか戦意を喪失してしまったかい?」
面白がる様な、からかい混じりの口調でかげろうが問いかける。
戦意を喪失したかだって?
そんなもの、言うまでもないじゃない。
口角を吊り上げ、目を輝かせる。
「それこそ“まさか”よ。燃えてきたわ・・・!」
「いやいやいやかいり!?状況見なさいよ!?アンタの大技で精々煤けた程度の相手よ!?」
「危ないよ~怪我しちゃうよ~」
心配する二人の声に感謝しつつも意図して無視する。別に、この戦闘狂“かげろう”の様な思考をしている訳じゃない。それでも、彼女との戦いは確実にかいりを強くする。
これ程の相手と本気でぶつかれる機会など早々有りはしないのだから。
ならば戦士としてやる事は一つ。自分の今持てる・・・全力を!
オートクレールを握りしめる。大地を踏みしめる。
前へ!
再度、鋼同士の衝突する甲高い音が岬へ高々と響き渡った。