ルクラッドの提案によって始まった4ゲーム目。
ローリエは真剣な表情で手札を確認して、泣く泣く強いカードを2枚、ダンの方へと手渡す。ダンの方から渡ってきたカードを見た瞬間、ローリエの目が一瞬驚きで見開かれた。
(これは・・・!)
慌ててバレない様に顔を引き締める。
本来ならこのゲームは強いカードを下位から徴収出来る上位の方が有利なルールだ。
だが、とローリエは珍しく瞳に闘志の炎を燃やす。
(この手札なら、もしかしたら・・・!)
「首位陥落のルールは無しで良いな?」
それは仕方ないと全員がうなづく。
最下位が奢りのこの卓の、それも一回勝負でそのルールを持ち出すのは余りにも酷と言うものだろう。
全員でルールを再確認し、前回最下位のローリエから、遂にゲームが始まる。
先ずは、とローリエは3枚の手札を手に取る。
「Kのトリプルです!」
開戦の狼煙を、ローリエは卓上に繰り出した。
「お、いきなり飛ばすなローリエ。パスだ。」
今までに無い闘志に満ちた初手に、隣に座るガリクソンは目を見開く。
パスの言葉に行けると思ったローリエだが。
「へっへっへ、悪いなローリエぇ・・・」
「あっ!?」
ローリエの対面に座るダンが、ジョーカーとAを二枚出す。それは、ダンがローリエから受け取ったカードでもあった。
子供が見たら泣き出しかねない凶悪な表情で笑う姿が妙に似合うのはある種の人徳だろうか。
だが、気合の入った初手を潰されたローリエはたまった物ではない。
パサリ
頭を抱えかけていたローリエの右手側から新たにカードが3枚差し出される。
「2のトリプル」
「んが!?る、ルクラッド~」
更なる奇襲にダンが歯噛みする。
これ以上上の数字が無い為、ルクラッドは重なった九枚のトランプを横へとどける。
気付かれない様にローリエの様子を盗み見た彼は、暫し考えて居る様に顎に手を添える。
「あうあうあう・・・」
出鼻を挫かれたローリエの気持ちは連敗も相まって折れそうになる。
ルクラッドは、一度手にかけたカードから、別のカードに指を移す。
「ダイヤの7」
「・・・え?」
ローリエが目を丸くする。それは、ローリエが望んで止まないカードだった。
だが、ルクラッドともあろう人が、二手目に出すカードにしては、不自然なまでに凡庸な手でもあった。
珍しい訳では無い。中途半端な数字を手元から退けたかった。そうとも取れる。
視線を上げれば、こちらを見据えるルクラッドの瞳と交差する。
言葉にするより雄弁に、瞳が語りかけてくる。
即ち『一発派手にかましてやれ』と言う激励の視線。ハッとしたローリエは、その勢いのまま手の中の一枚を抜き放つ。
「ダイヤの8!8切りのルールで流します!」
捨て場に二枚のカードを送る。すぐ様残った九枚の手札から、一挙に“八枚”ものカードを抜き放つ。
「ハートの3!4!5!6!7!8!9!10!革命です!!!」
連番かつ同じく絵柄をのカードを叩き付ける。さながらそれはローリエが扱う大砲の如き一撃。天地が翻り、ルールすら捻じ曲げる剛砲。
「な!?」
「なんじゃそりゃあああああああ!?」
ガリクソンが目を見開き、ダンは予想外の展開に悲鳴を上げる。
だが、ローリエは止まらない。
「8が入っているので再び8切りです!そして・・・」
手をかけるのは最後の一枚。皮肉にもそれは、ダンがローリエに渡した二枚のうちの片割れであった。
「最後の一枚で・・・上がりです。」
ローリエは最後の一枚を優しく卓上に送り出し、大きく息を吐くのだった。
「いやー!やるなぁローリエ!最後のは驚かされたぜ!」
「ああ。カードは引き手の気持ちに大きく左右される。それだけローリエの気持ちが強かった証拠だろう。」
バシバシと肩を叩かれ、二人から称賛を受ける。
あの後、革命で一気に強化されたガリクソンが二着での上がりを決め、涼しい顔でルクラッドもそれに続いた。
そして、泣きを見たダンはと言えば・・・
「この酒もう一杯!面倒だから瓶ごと持ってきてくれ!」
絶賛自棄酒の最中であった。
「お、所でダンよ・・・勝負前の約束・・・忘れてないよな?」
「ぐっ・・・ぬぬぬ・・・分かったよ!今日は俺の奢りだ!飲め飲めちくしょうーー!」
ガリクソンの追撃“とどめ”に、ダンは観念した様に叫ぶ。
やったぜと指を鳴らすガリクソン。静かに酒の追加を頼むルクラッド。
それぞれ個性のある行動を眺めながら、ローリエはこっそり財布の中を確かめ、割り勘で足りるか勘定する。
酒宴は続く。楽しげな笑いが卓を包む。それに心地よさを感じながらローリエは目を閉じる。
これは彼らにとっての日常の1ページ。
穏やかに、冒険者達の夜は更けて行くのだった・・・