「誕生日って・・・何?」
そのアズリアの言葉に、ソウラとギブは固まる。
外見は10代後半と言った風貌のアズリアだが、実際はつい先日卵から孵ったばかり。
不思議は尽きないが、ある意味彼女は0歳とも言えなくは無い。
故に貪欲に新しい知識を求め、時に突飛な発言をする彼女だが、親子や生まれの話に不安を感じる事が有るのはグレン城下町での騒ぎで痛感していた。
そんな彼女にどう伝えるべきかソウラが言葉に詰まる横で、ギブはアズリアにゆっくり噛み砕く様に言葉を伝える。
「誕生日って言うのは、その人が産まれた日でね。アズにとっては僕たちと出会った日かな?」
ホウホウホウと物珍しそうに話を聴くアズリアに、ギブは言葉を続ける。
「そうやって産まれた日に、僕らは『産まれて来てくれてありがとう』って言う感謝の気持ちを込めて、お祝いをするんだ。」
ギブのその説明に、アズリアは改めてぐるりと周囲を見回す。
祝われるウェディの男性や、樽の上で芸を披露し周囲を盛り上げるうりぽ。ソウラ達の様な突発参加の冒険者が料理を運び込み、一方で芸やプレゼントの対価としてその料理に舌鼓を打つ冒険者も居る。
アストルティア特有の、冒険者達の生きる姿がそこにはあった。
自分自身でも理解出来ない熱が胸に広がることを感じ、無意識のうちに荷物の中から取り出した宝物“サーニャとミラナの写真機”で片っ端からパーティーの様子を写真に収めていた。
「お!?嬢ちゃん良いもん持ってるじゃ無いか!!!」
軽快なシャッターの音に気付き、そう声をかけてきたのは一人の冒険者だった。
主役の男と同じPTらしきオーガの女性は嬉しそうに近寄って来ると、アズリアをまるで酒樽でも担ぐ様にヒョイと持ち上げそのままのしのしと力強く運んでいってしまう。
「丁度いい!主役のあいつの顔も一枚撮って頂戴な!」
「え!?え!?ええええええ!?」
突然の出来事に周囲を見回すアズリアだったが、薄情かな大事な仲間達は助けてくれる事は無いらしい。
「まあ、アズには僕たち以外との交流の経験がもっと必要だよね。」
「アズー!楽しんで来いよー!」
楽しそうな笑顔で送り出すソウラに、思わず薄情者~と情けない叫びで抗議する。
口ではそう言いながらも、運ばれる肩の上で周囲の写真を撮りまくる。
「ほらほら、この緩んだツラを一枚撮っておくれよ。」
運んで来たアズリアを椅子へと下ろし、何だなんだと驚く仲間達の肩を引き寄せる。
「え、えっと、じゃあ!撮るね!?」
その言葉でやっと何の為にアズリアを連れて来たのか気付き、ウェディの男を初めとした彼のPTメンバーがレンズの方に笑顔を向ける。
『カシャリ!』
軽快な音と共に写真機のシャッターが下され、4人の笑顔を一枚の写真上に焼き付ける。
「ぶっは!アンタ半目になってるじゃ無いか!」
「ああ!?お前こそ何だこの中途半端な笑顔は!」
アズリアが撮影した一枚の写真を囲んで大騒ぎする冒険者達。冒険者特有のその少々荒々しい語り方に、撮影が上手くいっていなかったのかと動揺したアズリアだったが、それに気付いたオーガの女性が肩を叩く。
「そーんな不安そうな顔しなさんな!よく撮れてるよ!」
「おう!いい記念になったぜ!ありがとうな!」
その言葉に、手元の写真機を強く抱きしめ、花が咲く様に笑顔が浮かべる。
口々に写真の礼を述べる冒険者に、自分も撮ってくれと声を掛けてくる他の人達。
楽しくて夢中で写真を撮っている内に、気付けば車両の片隅、ソウラの隣に戻って来ていた。
「ほらソウラ!見て見て!写真こんなに!」
両の手で溢れんばかりの写真を頭上に掲げ、嬉しそうにポーズを決めるアズリアに、ソウラも一緒になって笑顔を浮かべる。
「なあ、アズ。」
「ん?何?」
頬を掻いて、少々照れ臭そうにソウラは言葉を紡ぎ出す。
「グレンでも言ったけど、俺達はパーティーだ。苦しい事も一緒に乗り越える。」
だけど。そう言葉を続ける。ソウラにとって決意表明でもあった。
あの時と同じ様に、真っ直ぐに瞳を見据えて。
「だけど、こんな楽しい事も一緒に共有出来るんだぜ。だから・・・えーっと・・・あ~・・・」
言ってて恥ずかしくなって来たのか、顔が赤くなり言い淀む。
それでも、気持ちは確かに伝わった。
嬉しそうにソウラの手を握り、アズリアは笑う。
「じゃあじゃあ!1年後!ボクの誕生日もみんなで祝ってくれる!?」
その言葉に、ソウラは太陽の様な笑顔を浮かべる。
「ああ!今みたいに、俺の知り合いの冒険者集めて、パーっとやろうぜ!」
宣言するソウラに、アズリアも笑顔で頷く。
カシャリ
胸に抱いていた写真機のシャッターを下ろす。
また一枚、アズリアの新たな写真“おもいで”が、刻まれるのだった。