「敵襲!敵襲ーー!!」
「例の潜水艦だ!隣の地区から援軍を呼んできてくれぇ!」
リザードマン達の伝令の声が上がる。
海底離宮の外縁部。
深海に隣接する地域に接近する巨大な影。
『揚陸潜水艦レヴィヤット』
この離宮に突入した第一陣の冒険者達。彼等を運んだ功労者。
現在は強襲用の艦として、新たに合流した冒険者達を乗せて深海を巡っていた。
「挨拶とかした方がええのん?」
「勿論させて貰うよ。・・・GO!」
結界を乱暴に揺らし、潜水艦が接舷する。
突入部隊の頭脳の一角、極光の魔女『リンドウ』によって作られた結界破りの符号“コード”が点穴を生み、結界を穿つ。
波濤の如く。荒々しく。大津波にも負けぬ冒険者が激流となって飛び込む。
「グゥルルルルァア!!」
獣の如き雄叫びが上がる。
真っ先に飛び出したのは三つの影
大鉈の如き剣を二刀振り回すオーガの『オストラコン』
竜よりもなお龍の様に暴れ狂う重爪の『ユリオ』
二人と比較して可愛らしい見た目。そこからは想像できないラッシュを繰り出すプクリポの『シャイン』
「ごめんください。ってね。」
「あら、可愛い外見で紳士的なのね。」
三人へと突入の指示を出したのは、彼等と心通わせる仲間。バーサークテイマー『クックルー』
悪戯気な笑顔を浮かべ、挨拶を呟く。
一気に駆け出た三人に続き、潜水艦から冒険者が次々と戦場へ身を躍らせる。
「それじゃあ挨拶もしたし。」
「ウチらも行くとするのん!」
和装のエルフの女性『レクトラ』
そして眼帯に漆の様な深い黒の衣装を纏った人間の女性『テラ』
嬉々として駆け込んで来た二人の顔を見て、リザードマンやホークマンの一部がギョッとした様に目を見開く。
「お!お前らは昨日のぉ!?」
言葉を言い切る前にレクトラの麗剣とテラの絶槍が彼等へ届く。
及び腰で構えたリザードマン達の刀剣が麗しいレクトラの剣筋と共に次々根元から断ち切られる。
テラの槍が唸りを上げ、鞭の様にしなる。ホークマン達が次に気付いた時には、背中を強く打ち据えられ離宮の海底を見上げている。
二人は止まらない。振り向きざまに互いに向かって獲物を投擲する。
レクトラの刀が、テラの槍が、互いの頬を掠め、双方の背後を狙っていた魔物達に突き立つ。
「人形斬っても、」
「つまらんわぁ。」
二人がすれ違い、それぞれ突き立てた自らの武器を敵を蹴り飛ばし引き抜く。
次々殺到するキラーマシンや泥人形の群れを互いの背を任せて切り裂き、穿って行く。
数で勝り、囲いの中に飛び込んで来た筈の二人の周囲には瞬く間に倒れ伏す敵の山が築かれていた。
一息付いた所で、ふと今まさに気付いたとばかりに、レクトラはリザードマン達を見下ろして言葉を紡ぐ。
「なんやテラはんの事見て驚いてはったけど、お知り合いなん?」
「いやいやレクトラの事見て驚いとったやん。そっちの知り合いちゃうの?」
白々しくも自分達の前でそんな会話をする二人に、挑発だと分かっていながらリザードマン達の額に青筋が浮かぶ。
「き、貴様ら!昨日ゲドラ地区で散々我等をコケにしておいて!」
何とか起き上がったホークマンの一人が果敢にも斬りかかるが、レクトラはあっさりと峰で受け流し、その力を利用して軽々と放り投げてしまう。
「おああああああああ!?」
情け無い叫び声と共に転がったホークマンはゴロゴロとボールの様に転がり、岩壁にぶつかるとあっさりと伸びてしまった。
「嫌やわ~こんな花も恥じらう乙女二人捕まえて~そんな怒らんといて~」
コロコロと、“ミリオンスマイル”にも負けず劣らずの笑顔を見せる二人。
「次に会った時は必ずや・・・」
「何をされちゃうんやろなぁ?」
「やっぱり覚えてるじゃねぇかぁ!!」
その笑顔のまま放たれたトドメの一言。
つい昨日自らが放った捨て台詞を引き合いに出され、リザードマンは泣きながら叫ぶ。
その様子の無惨さは遠くから見ていた通信手のエルフの男性が思わず合掌する程であった。
「くそ!次だ!次こそは覚えておけよ!」
「ハエ以外とも稽古せなあかんよ~」
「切る稽古もするんよ~」
「ちくしょおおおおおお!!」
二つの高笑いに見送られ、哀れなホークマン達が泣きながら逃走を始める。
この部隊の役目は揺動。戦場を揺さぶり、敵に自らの策と力への信を疑わせる。
それ故、彼等はこの作戦に参加する冒険者の中でも指折りの曲者揃い。
華々しく。
荒々しく。
「さーて、もうひと暴れしますのん?」
派手な活躍をしている他の冒険者達を楽し気に見つつ、レクトラは呟く。
自然体で有りながら華々しく。
その有り様は正しく天衣無縫。
彼女達の舞踏はなお続いて行くのだった。
進撃再開まであと21時間・・・