トンテンカン、トンテンカン。
「おーい!その建材はこっちに頼む!」
トンテンカン、トンテンカン。
「はい!はい!それじゃあ、お二人は休憩したら左脚の方のお手伝いでお願いします~!」
トンテンカン、トンテンカン。
「お、良いねぇ先生!その調子で頼むぜ!」
建材を積み上げる音色。
それは、さながら演奏会の会場であり・・・もう一つの戦場だった。
「棟梁~次の建材の搬入準備、終わったそうです~」
パタパタと、小さい身体で動き回る姿がその努力家な一面を感じさせる。
ドワーフの女性『マルモ』が声を掛けたのは、一方で忙しさを微塵も感じさせない笑顔を浮かべる男性。
「おお!そうだな~出来ればオーガの先生方に手伝いを・・・お!レスリングの先生!良い所に居るじゃないか!」
纏め上げた髪が快活さを際立たせる人間『ロマン』
考え込みながら周囲を見回していた彼は、近くを通りかかったオーガ『シュペーア』の肩を気安い様子で叩く。
「おお棟梁。何か用かな?」
「新しい建材が届くって事で、何人かに声掛けて運びに行ってくれ!」
ふむと顎に手を当てたシュペーアは、何人か心当たりが有るのかニヤリと年季の入った笑顔を浮かべ、頷いた。
「よーし任された。搬入先は向こうで聞けば良いかな?」
「おう。頼んだぜ先生!」
力強く肩を叩き、互いの働きに喝を入れる。
その気負う様子の無さに、マルモは呆れる様な表情をしつつも、内心は素直に感心していた。
「棟梁って本当に指揮に徹してるんですねぇ。」
「ま、現場監督ってのはそれが仕事だからなぁ・・・ってこれは前にも言ったか。」
豪快に笑うロマンだが、マルモの表情には防衛戦の最中に聞いた時の様な焦りは無い。
数日の間、流れで秘書の真似事をして来たからでこそ分かる。
一見豪快で奔放な様に見えて、ロマンと言う男は仕事に対しては真摯に動く人だと言う事。
「棟梁が作業した方が早い場所は沢山有りますよね?」
「そりゃあ、俺っちは本職だし、自分でやった方が『その場所』は早く終わるだろうさ。」
でも、それじゃあいけない。
この数日で特にマルモが感心したのが、そのロマンの大局をみた動きだ。
「俺っちが動いてるせいで他の現場の作業が遅れたら本末転倒だからな。そうならない為の現場監督な訳だし。」
今冒険者達の拠点で有るこの橋頭堡は急ピッチで改修が進んでいる。
城サイズの建造物の改築。それをたった一日半程でこなそうと言う計画は、常識的な目から見れば無謀と言わざるを得ないものだった。
「なーに、腕っ節自慢の冒険者の先生方や軍人先生方が居るんだ、大丈夫さ。」
だが、蓋を開けてみればどうだ。
ロマンの陣頭指揮の下、既に城の外殻の大半が工事を終えている。このまま進めれば夕刻には改築は終了するだろう。
「お、天地雷鳴士の嬢ちゃん達!今は休憩かい?」
マルモが考察を進めていると、ロマンはまた新しい相手に声を掛ける。本当に休みなく動く。ともすれば落ち着きがないと思いながら見れば、ロマンが声を掛けた二人の少女が目に映る。
「ああ。今はデスマスター?とか言う珍しい職業の奴らが扉を見てくれてるよ。」
答えたのは少女の一人、黒の和装束を纏った天地雷鳴士の『マシロ』
そしてその背の後ろに隠れる様に立つのは、白い装束の天地雷鳴士『ユウリ』だった。
「嬢ちゃん達のお陰で旅の扉は完成したんだ。感謝してるぜ。」
少年の様に笑うロマンに、背中に隠れていたユウリもおずおずと頷く。
「わ、私も、役に立てたなら嬉しい・・・です。」
掠れる様な小声だが、そう言葉を紡いだユウリに誰よりも驚いた表情を浮かべたのは友人でまるマシロだった。
ロマンはそんな様子を気にせず、二人の肩を優しく叩く。
「もうちっとだけ、旅の扉を頼むぜ、二人とも。」
その言葉に二人は頷く。
気安い言葉でありながら、労いと信頼を感じさせるのは、ロマンの人徳故か。
マシロとユウリの二人を見送るロマン。
その背を眺めながら、マルモは分析する。
『頼んだ』『頼りにしてる』
ロマンがよく使う言葉だ。
それは、魔法の言葉なのかもしれない。
『信頼』を口にするロマンの態度や立ち居振る舞いは、信頼として彼へと帰って来る。
「さっきの話だけどな。」
ロマンは話を切り出す。
「俺っちはこの仕事を誇りに思ってる。人と人が力を合わせて、デッカイもんを作り上げるこの仕事に。」
背負ったハンマーを叩き、ロマンは笑う。
「だから、大丈夫なんだ。」
ニヤリと、あの少年の様な笑顔で。
「理屈とかじゃなくてな、そう言う仕事も、有るんだと思うぜ。」
そう語るロマンの背中は、種族の差など関係無く、ひたすらに大きく見えた。
進撃再開まであと18時間・・・