「どう言う事か説明して貰おうか?」
青筋を立て、組んだ腕を指で叩くのは、他転移呪文によって席へと飛ばされたロスウィードだ。
『主催・解説』と札が立てられた横長の机、その隣にはミャジが座っていた。
「いやーそれが・・・ブフッ!」
説明しようと向き直ったミャジが思わず吹き出す。
何事かと訝しむロスウィード。その頭上に・・・如何にもパーティー向きと言わんばかりの安っぽい三角帽子が乗っていた。
軍帽の上に三角帽子というミスマッチさが違和感を加速させる。
おそらくブラオバウムの悪ふざけであろうそれを見て、ひとしきり笑った後に、ミャジはどうにか言葉を紡いだ。
「ヒーッヒーッ・・・いやーいきなり冒険者呼んで闇鍋やろうって言っても絶対反対するでしょ?」
頭上の三角帽子を乱暴に引き剥がし、無言で握り潰したロスウィードは、不機嫌な表情のまま頷く。
「だから、通りそうな表立った企画を作って、裏で冒険者の方に手回ししておきました!」
つまり、ロスウィードが目を通した鍋パーティーの依頼書はダミーの方であり、今のこの状況に持ち込むための目眩しであったと言う事。
会場の設営や、その他雑務的な準備の書類は本物である事がタチの悪さを加速させている。
「・・・始まってしまったものは仕方ない。準備は手伝ったし、後は適当に視察して帰らせてもらうぞ。」
諦めの溜息と共に席を立つロスウィード、頭痛を抑えるかの様に頭を抑えるその首に、ミャジは襷をかける。
「そんなのダメに決まってるじゃないか~」
掛かった襷は派手派手しい色の生地に大きな文字で『試食係!1杯恵んでください!』と言う文字が縫い付けられている。
いよいよ表情から感情が消え始めたロスウィードが、やや投槍に視線をミャジへと向ける。
その視線から説明しろと言う意思表示を受け取ったミャジは変わらない笑みのまま、得意げに説明を始める。
「ほら、ロス君一応全部終わった後に報告義務が有るでしょ?どうせなら、一緒に鍋を囲んで味わった方が、正確な報告書が書けると思って!」
そう言いながらロスウィードの手に何かを押し付ける。
それは、白磁の器とレンゲ。艶やかな表面には薄くロスウィードの顔が反射している。
そんなやりとりをしている二人を他所に、いくつかの机から歓声や悲鳴が上がる。
「ホラホラ~ぼーっとしてると貰えなくなっちゃうよ!」
半ば強引に立たせたロスウィードの服をミャジが強引に引っ張る。
「ま、ここまで振り回されたんだ、もう何をされようが大差ないか。」
諦めの境地となったロスウィードは、もう一度だけ自身にかけられた悪趣味な襷を見てため息を吐くと、渡された器を握りしめ、最初の鍋へと歩き出した。
ーーー闇鍋大会をしよう【1杯目】ーーー
「あの、悪いですから・・・私が取り分けますので・・・」
おどおどした声で、しかし手元では受け取った皿を次々と席に着いた面々に回して行くのはプライベートコンシェルジュで有る事を示す楚々としたメイド服を身に纏ったウェディの女性『へーネス』
「気にする事は無い。好きでやっている事だからな。」
そう穏やかに笑いながら器に鍋の汁と具材をよそっているのは真っ赤なヒーロースーツを纏ったオーガの女性『せ~くすぃ~』なお、名前は自己申告のコードネームだそうだ。
「お鍋楽しみだね~ウサみんちゃん!」
「楽しみだね~ごましお君!」
「「ね~♪」」
自分の前に回ってきた器に目をキラキラさせて、嬉しそうに笑うのは今回の参加冒険者の中でも最年少に近い二人の冒険者『ウサみん』と『ごましお』
既に自らの前に皿が来ているにも関わらず、手を付けずに待っているその様子は、二人の素直さと、そしてそう導く人達の愛情が伝わって来る。
「ウフフー二人ともお行儀良いネー」
もう一人、綺麗な姿勢で椅子に座り、二人の様子を眺めていたウェディの女性『アダマス』は、楽しげに言葉を続ける。
「でもネー私が持ってきた牡蠣って貝は時々当たるから、気を付けてネー。」
「当たる?何かアタリが有るんですか!?」
「違うよごましお君!貝に当たるって言うのはね?お腹壊しちゃう~って意味だよ!」
ちょっと自慢げに胸を張って教えるウサみん。普段は色々学ぶ立場だからでこそ、何かを誰かに教えることが出来ると言う状況が嬉しいのだろう。
そんな微笑ましい二人の様子を見ながら、へーネスはアダマスの前にも盛り付けが終わった器を置く。
「話題作りがお上手なんですね。ちょっとドキドキしちゃいました。」
「嘘は言ってないヨー。」
飄々としたアダマスの態度に笑みを浮かべ、自らも席に戻る。丁度せ~くすぃ~が自身の分までよそい終わった所であった。
「それでは、頂くとしようか。」