「「「「「いただきます!」」」」」
手を合わせ、元気に声を出した年少者二人が、早速手を動かす。
闇鍋と言う形式上、どんな物が出来上がっているか分からないが、その迷いの無さは純真さ故だろう。
そんな子供達に遅れは取っていられないと、へーネス達も具材を口に運ぶ。
「これは・・・!」
「ふむ・・・」
「ウフフ・・・」
大人組が三者三様の反応を示す。
結論から言えば、『普通』に食べれる味であった。
元々、事故を防ぐ為にロスウィードの手回しで全ての鍋には出汁がひかれ、下味を整えてあった。
比較的主張が少ない食材が出揃ったこの机の鍋では、出汁の良さを活かし、纏まった鍋が完成していた。
が、闇鍋と聞いてやって来た面々はこうも考えてしまうのだ。
(地味だな・・・)
(少し地味ですね・・・)
(地味だネー・・・)
と
しかし
「美味しい~」
「美味しいね!この帆立プリプリで!」
「こっちの牡蠣も美味しいよ!」
そんな会話をしながら楽しそうに食事を楽しむのは年少組であるごましおとウサみんの二人。
キャイキャイと騒がしく食べ進める二人の様子に三人は我に帰る。
そうだ、別に美味しいならば良いじゃ無いか。
何も難しく考える必要は無い。
美味しい料理を美味しいと食し、子供達は無邪気に笑う。
誰だってしている事だ。
心に暖かい物を感じていた三人の元へ近付く人影が二つ。
「ヤッホー?どんな感じになってるー?」
「一応主催として少し分けて貰いたいのだが構わないか?」
楽しげに鍋を覗き込んできたミャジとやや申し訳なさそうに器を差し出すロスウィード。
「あっハイ、どう・・・フフッ・・・」
「その襷はどうなのかナー・・・」
ロスウィードの肩から掛けられる襷に遅れて気付いた面々が三者三様の反応をしめす。
暫し自分の格好を見直していたロスウィードは、横でミャジが声を殺して笑い転げている事に気付くと、額に青筋を浮かべた。
「ッフ!」
目にも止まらぬ速さで襷を抜刀。そのままフルスイングでミャジの顔面に叩き付ける。
「ふぎゃぁあああ!?目がぁ!?顔がぁああ!?」
女性が上げるには余りに品の無い声を上げ、赤くなった顔を抑えてのたうつ。
「すまない。こちらも仕事でな・・・どうか少し分けてもらってもいいだろうか?」
やり切った顔で振り返ったロスウィードが差し出す器をへーネスは苦笑を浮かべて受け取る。
騒がしくしていた事に気づいたのか、はたまた自分達の鍋の反応が気になるのか。いつの間にかロスウィードの感想を待つ様に五人の視線が集まっていた。
そんな様子を気にせずロスウィードは具材を数口食べ、スープを啜る。
受け取った器を空にして、一息付いたのち、口を開いた。
「なんか地味だn「馬鹿者ーーーー!!!」うぐーーーー!?」
ドルブレイブがリーダー、せ~くすぃ~の正義の拳が一閃。
錐揉み回転したロスウィードは綺麗に壁へと突き刺さる。
「そこは世辞でも美味いと言うのが男というものだろう!」
せ~くすぃ~の一喝に、ミャジはうんうんと頷き、こっそりよそった鍋を口に運ぶ。
牡蠣とホタテの旨味が広がり、出汁との相性も良い。食パンは見た目こそ汁気を吸っているが、そこは主張の少ない炭水化物。無理に主張せず、出汁を吸って味は悪くない。
ウサみんの持ち込んだ紅茶が渋みとなって、隠し味としてアクセントになっているのもポイントだろう。
その出汁は、ヴェリナードが用意した物以外に、せ~くすぃ~が持ち込んだこんぶ大将ととろろ将軍が味に深みを与える。
一拍
「美味しい・・・けどやっぱり普通なんみゃみゃみゃみゃみゃみゃ!!??」
掌返しの言葉を言い切る前にミャジの言葉が壊れた神カラクリの様な意味の分からない物になる。
せ~くすぃ~だけは気付いていたが、普通なのではと言い掛けた瞬間、アダマスが目にも止まらぬ早技で毛先程の小さな『痺れ針』を撃ち込んでいた。
「二人ともどうしたのー?」
「・・・もしかして美味しく無かった?」
不思議そうにミャジをつつくごましおとウサみん。
二人の肩に手を置いたせ~くすぃ~は、諭す様に二人の瞳を見据えて言葉を紡ぐ。
「美味しすぎて吹っ飛んでしまったり気絶してしまったようだ。」
言い切った。
長年人々を守り、仲間を率いて来たリーダーの貫禄だろうか。ハッキリと断言するその言葉には不思議な安心感が有る。
「美味しかったんだって!良かったね~」
「やったねウサみんちゃん!」
その言葉に咲いた笑顔の花はどんな報酬よりも素晴らしい。
テキパキとコンシェルジュらしく邪魔者二人“ミャジとロスウィード”を片付けながら、へーネスはそう思うのであった。
1杯目総評:愛情はどんな調味料にも勝る。