「かっらーーーーい!!!」
りょーこが真っ先に叫ぶ。
口にしたスープと具材は、まるでそれそのものが火球呪文“メラ”であるかのように、喉。そして腹の中へと落ちてなお熱を帯びているかの様な存在感を放つ。全身から汗が吹き出し、辛さが舌をコレでもかと刺激する。
獄炎の文字に偽り無し。その味はまさしく魔界の業火のごとし。
「・・・むむ!?」
しかし、そこでめ~たを除く面々の表情が驚愕に彩られる。
その原因は、猛烈な辛さの底から一気に吹き出した強烈な旨味。チリソースのトマトの風味と、鍋の出汁が見事にマッチし、それをねむネコが持ち込んでいたチーズの濃い塩味がまろやかに包み込む。
「手が止まらないわ!?」
「ぷっきぷき~!?」
りょーこも、そしてぷきも辛いのを分かっていながら箸を口へと運ぶ手が止まらない。
辛い。だが、美味いのだ。
りょーこが持ち込んだ柔らかい肉は、チーズとの相性が特に良く、ほろほろと口の中で解け、チーズの旨味とチリソースの辛味が弾ける。
ぷきのチョウチンアンコウ。淡白だがしっかりとした身はチリソースと意外な相性の良さを見せる。そしてあん肝。ネットリとした舌触りと濃い味は、チリソースの辛味に負けじと力強く主張し、しかし喧嘩するのではなく仲良く肩を抱き合っている。
「ううむ、辛い物。と敬遠していたが、今後は色々食べてみるか・・・。」
「いいと思いますよ。辛さには色々有って奥が深いので!」
新たな発見に喉を唸らせるまつのりに対し、め~たは嬉々として答える。
普段は人見知り勝ちで口数の少ないめ~たが楽しそうに冒険者と話している姿を目の当たりにし、友人としてねむネコも思わず口を綻ばせる。
「ぷき!」
「あっと、おかわりですね?どうぞどうぞ。沢山食べて下さい。」
「あ!アタシにもおかわり頂戴!」
最初の困惑や警戒は何処へやら。文字通り、蓋を開けてみれば冒険者達の箸は止まる気配を見せない。
次々に差し出される空のお椀に、流れで鍋奉行状態になったねむネコがおかわりを注いで行く。
「む、アクロバーガーは奇をてらい過ぎたと思ったが、これも存外合う物だな!」
跳ねるほどに柔らかいバンズが特徴のハンバーガーであるアクトバーガーは、流石に元の形状は崩れてしまったものの、柔らかなパンはソースを吸って他の具材とは違う歯触りで口を楽しませる。
肉厚のパティにこの激辛ソースが合うのは言わずもがなであり、レタスはさながら即席のキムチの様な状態になっており、米が有ればこれだけで白米をかきこめそうな程。
だが、辛味に精通しため~ただけは気付いていた。この鍋を成立させた影の主役が、このアクロバーガーに伏していた事に。
「ハンバーガーに使われていたソース。これが決め手ですね・・・!」
「ソース?どう言う事かしら?」
よくぞ聞いてくれました。そんな言葉の代わりに、め~たの瞳がキラリと光る。
「このアクロバーガーのパティには、玉葱を刻んでじっくり炒めた物に蜂蜜と各種調味料をふんだんに使ったソースが塗られているそうです。」
「ああ。たしかに。大きなバンズやパティに負けないように、甘辛のソースをたっぷりと塗るのがアクロバーガーを作る時のコツだな。」
うんうんと頷くまつのりに、め~たは我が意を得たりと追従する。
「そうです!この蜂蜜を主体としたソースが、獄炎チリソースの味にコクと深みを増しているのです!」
力説するめ~たに思わず拍手を贈る。
その拍手でむしろ我にかえり顔を赤くして椅子に縮こまってしまうのだから、彼女の人見知りが治るにはまだまだかかりそうだとねむネコは苦笑した。
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「ん~!美味しそうな匂い!」
「ああ。刺激的だが良い香りだ。」
穏やかな空気が流れた机に、新たな声が掛かる。それは言うまでもなく、ミャジとロスウィードの二人だった。
言葉と共に鍋を覗き込んだ二人の表情が驚愕に彩られる。
それは、先程までのまつのり達の様に、真っ赤な鍋に驚愕したから・・・ではない。
「か・・・完食してる!?」
そう。鍋の中身が僅かばかりのスープを残して空になっていたからだ。
決して少なくは無い量だったのだが、机の面々も驚く程の速さでの完食である。
「あーすごく美味しくてね。良ければスープの味見だけでもする?」
申し訳無さそうなりょーこの提案に、そう言う事で有ればと二人はれんげでスープを一杯だけ掬う。
この鍋。あっという間に完食する程のおいしさであった。
完食される程の美味。弥が上にも期待は高まる。そうして、二人はスープを口にした。
とは言え、である
「「からい!!!」」
残念ながら、辛いものは辛いのである。
四杯目総評:とても、からかったです。