「ロスウィードさん、ちょっと相談が……」
そう声を掛けてきたのは運営スタッフをしていたヴェリナード衛士の一人だった。
まさか暴力沙汰じゃ無いだろうかと身構えたロスウィードだったが、その衛士の表情に含まれる感情が所謂“戸惑い”や“困惑”で有る事に気付く。
そうして、今の状況を考えた上で、溜息と共に一つの結論を出す。
「冒険者が何かやらかしたか?」
「えっとその……」
どう伝えた物かと、言い淀んだ衛士の男だったが、意を決した様に背筋を伸ばすと、ロスウィードの頭痛がより深刻になる言葉を紡ぎ出した。
「会場の外に・・・きょ!巨大な鍋が出現しました!」
ーーー闇鍋大会をしよう!【五杯目】ーーー
参加メンバー&持ち込み食材
ライオウ“ギガントドラゴン”
レオモフ“デスパロット・ネイルビースト”
リルカ“トリカトラプス”
ガーティア“サウルスロード”
ライティア“メガトンチャンプ肉”
「何これ!?すっごい!」
状況を把握する為会場の外に出たミャジは目の前の光景に素っ頓狂な声を上げる。
深さだけで2mは有ろうかと言う大鍋。それが会場の外に鎮座していた。
「ふっふーん!どう?驚いたでしょ!?」
金糸のような髪をポニーテールにまとめた少女が胸を張って答える。
道着のような衣装を纏った『ライティア』のその言葉に、何人か作業していた冒険者達がロスウィードの周囲へと集まって来た。
「おお!鍋司令!やーっとこっちに来たか!」
大音量の声と共に大笑いするのは落ち着いた黒の服礼服を纏ったオーガの男性『ライオウ』
ロスウィードは彼から掛けられた不名誉な呼び名に苦虫を噛み潰した様な顔を浮かべる。
「オレタチ!オイダサレタ!ニクイッパイ!ダッタノニ!」
小さな体で片言ながら必死にロスウィードを責めるのはプクリポの少年『ガーティア』
毛皮をあしらった上着を纏って八重歯が目立つ格好は正しく野生児と言った風貌だ。しかしながら荒々しさよりも可愛さを際立たせるのはプクリポと言う種族故か、それとも彼の少年らしさがそうさせるのか。
思わずそんな事を考えながら、ガーティアの頭を撫でていたミャジは、他のメンバーの顔を見て思い出したと言わんばかりに手を叩いた。
「あ~、ロス君思い出した。ここに居るメンバー、持ち込んだ食材の関係ですぐに中に入れ無かった人達だ」
ミャジの言葉を聞くまでもなく、ロスウィードもガーティアの言葉でそこに考えは至っていた。
ライオウのギガントドラゴン丸々一頭を筆頭に、ここに集まったメンバーが持ち込んだのは魔物一頭丸々と言う、大味な食材ばかり。
それを持ち込んだ冒険者達だった。
だが、それと眼前で湯気を上げる大鍋が結び付かない。確かに、この大鍋であればアレらの食材切り分けて鍋にする事も可能であろう。しかし、ロスウィードが目を通していた書類にはこんな大鍋を用意する等微塵も記載されていなかった。
「それがだな、俺たちにとっても予想外の助っ人が来てくれてなー」
「あの子の持ってきてくれた大鍋で、あたし達も勝手に始めたんだよ」
紫紺の服を纏ったプクリポの男性『レオモフ』が傑作だったと言わんばかりに含み笑いをする。
安心したと当時の事を語るのは橙色のバンダナで髪を纏めたオーガの女性『リルカ』。
そして、そんな二人の後ろからやってきた『人達』に、ミャジとロスウィードは成る程と納得の笑みを浮かべる事となる。
「フッフッフ・・・英雄は遅れてやって来るって事ね!」
「いやー、娘が世話になってるからと来て見たら、こんな面白い事の片棒を担ぐ事になるとは思わなかったぜ」
先頭に立っていたのは長い黒髪と同じ吸い込まれる様な黒い鎧を纏った人間の女性『かいり』
動きやすさを重視したオーガらしい服装の大柄な男『タツノコ』
彼等を初めとして、何人かの冒険者が騒ぎを聞きつけ集まったのか慌ただしく動いていた。
何でもかんでもお祭り騒ぎにしてしまうのは冒険者の性か。次々と巨大な魔物を切り分けては鍋へと放り込んでいく。
「良いのライオウさん?なんかギガントドラゴンどんどん持ってかれてるけど」
「気にするな!こう言う事も有ろうかとデカイ獲物を持ってきとるんじゃい!」
大声で笑い飛ばす姿は親分やガキ大将と言った風格だろうか。かいりとライティアが横に並んで一緒に笑っているからか、より一層そんな印象が強くなる。
それよりも、そう話を区切り、非常に楽しそうにライオウはロスウィードの肩を抱く。
「お前らも折角来たんだ、ワシらの鍋も食って行け!」
ロスウィードが答えるまでも無く既に鍋の方へと引き摺り出すライオウは、終始大きな笑い声をあげて。
こう言う展開になるよなと、ロスウィードは一人溜息を吐くのだった。