「あ!居た居た!やーっと見つけた!」
すっかり重くなったお腹を抱え、会場の中へと戻った二人を叫び声が引き止める。
「げ!?」
振り向き、声の主人を確認したミャジが呻き声とも悲鳴とも付かぬ声を上げる。
「人の顔見て一番にその反応は酷いんじゃ無い?知らない仲でも無いんだから。」
快活に笑う人間の女性。深い紫色の帽子と服を纏ったその姿は、如何にもな冒険者と言った風貌。
「ほら!鍋の味見して回ってるんでしょ?私達の机にも来なさいよ!」
グイグイとミャジの背中を押す女性『ラズ』その正体は怪盗団を束ねる女ボスだったりする。
悪戯したくてウズウズしている笑顔に、ミャジは嫌な予感を募らせるのだった。
ーーー闇鍋大会をしよう!【六杯目】ーーー
参加メンバー&持ち込み食材
ラズ“高級そうな茸”
きみどり“餅”
スウィート“ざらめと抹茶アイス”
メリアーヌ“アイス”
シグナル“ロシアンルーレット肉団子”
「あ!ラズやっと戻ってきたなー!?」
渋々ラズに連れられて向かった先から、咎める様な声が上がる。
「あれ?スウィート久しぶり~。」
「やあやあミャジ!面白い事やってるって聞いて参加したのさ!」
ドワーフのずんぐりとした腕を振って居るのはまたミャジの知る冒険者の男『スウィート』だった。
「出来れば~食べ物には面白い物は怖いかな~なんて・・・」
Vサインを作るスウィートの一方、どんよりとした空気を纏うのはエルトナに伝わる伝説的な職業『ニンジャ』の装束を纏った人間の女の子『きみどり』だった。
「まあまあ、闇鍋ってそう言う物ですから、楽しむ位が丁度良いですよ。」
ゆっくりときみどりの頭を撫でて彼女を宥めるのは穏やかな物腰のオーガの女性『シグナル』
「だってだって!スウィートさんもメリアーヌさんも持って来たの甘い物だよ!?」
「うぐッ!」
ズビシ!と音がする程の勢いできみどりが二人の人間を指差す。スウィートの方は図太くニコニコしていたが、もう一方の人間の女性は気不味そうに胸を抑える。
「違うんです・・・鍋のデザートにと思ったんです・・・まさか全部放り込まれるなんて思ってなかったんです~!」
堰を切ったように語るのはセーラー服の様な白い服を纏った『メリアーヌ』
本気で申し訳ないと思っているその様子に何とも言えない空気が流れる。
「で、結局鍋はどんな味になってたの?」
「・・・アンタこの空気でそれを言えるの凄いわね・・・」
そんな空気をものともしないミャジの情け容赦の無い質問に、ラズですら引き気味の反応を示す。
三者三様の反応を示す机の中心に未だ蓋が閉じたままの鍋が鎮座している。つまり、未だに誰も中身を確認していない事を意味していた。
「まあこう言う感じだったから、開けるの待ってもらってアンタ達を探してたのよ。」
ラズがそう言って鍋の蓋に手をかける。
誰もが中身に集中し、中身を見ようと注視する。
そんな中、未だに悪戯気な笑みをラズが浮かべている事に、ロスウィードだけが気付いていた。
「それじゃあ・・・アバカーム!なんちゃって。」
古くに伝わる鍵開けの呪文にちなんで蓋を開ける。
白い煙が天井へと昇り、その中から鍋が顔を・・・
「・・・ん?」
現さなかった。
困惑する言葉がラズ以外の者の口から漏れる。
白い煙が何故か鍋の中に停滞している。試しにお碗に鍋をよそってみると、驚く事に煙はお椀の中まで付いて来た。
「何これー!?」
さっきまでの憮然とした態度から一転、きみどりが真っ先にその不可思議な現象に目を輝かせる。
スープを掬おうとも、箸で具材らしきものを持ち上げようとも、常にその周りに真っ白な暗幕が付いて回る。
それどころか、匂いも、重量も、熱さえも。
中身の様子を予想させる要素が一切受け取れない状態となってる鍋に、好奇心旺盛な冒険者達はすっかり興味を唆られていた。
「ふふーん!驚いたでしょ!?」
「やっぱりラズの仕業かー。一体何を仕込んだのさ。」
得意気に笑ったラズに、彼女の正体を知るスウィートは今度はどんな驚く事をやってくれたのかと身を乗り出す。
「聞いて驚きなさい!これは『パルプンテ鍋』って言うの!料理にパルプンテをかける凄い鍋よ!」
「「「な、なんだってーーーー!?」」」
ノリノリでのけ反りながら叫ぶスウィートときみどり、そしてミャジの3名。
「うんうん。ノリが良くて大変良いわね。やっぱ冒険者ならそうでなくちゃ。」
「あの・・・料理にパルプンテをかけるとはどう言う意味でしょうか?」
恐る恐ると言った様子で手を挙げるメリアーヌ。そんな彼女へと今日一の笑顔を浮かべたラズはサムズアップと共に言い放った。
「食べてみれば分かるわよ!」