【は~いグループ作って~!】
悪夢の言葉である。
人間関係。好き嫌い。人数差。男女。
数多の理由と思想と、ほんの少しのコミュニケーション関係。
瑣末な事と言うなかれ。本人達にとっては大問題なのだから。
そして今
「……はぁ」
「……ぞな」
「……ぼむ」
割りをくった三人は、もそもそと鍋を突いているのだった。
ーーー闇鍋大会をしよう!【七杯目】ーーー
参加メンバー&持ち込み食材
フルート“海苔”
マージン“自家製コンバットレーション”
ソーソー“人をダメにする水【もとい酒】”
本来、この闇鍋大会は一つの机に五人の冒険者が着席するように仕組まれていた。
賢者ブラオバウムの他者転移呪文“バシルーラ”を使ったその企みは、概ね成功している。
だが、稀代の賢者にも不可能は存在する。
例えば、今回のように居ない人間を生み出す事等、当然出来はしない。
詰まるところ、今この机に着席する三人は如何なる集団か。
『端数になってしまった三人組』
早い話、五人で割り切れ無かったのだ。
「味気無いなー……」
参った様子で笑うのは作業着にも見える服装とゴーグルが印象的な人間の男性『マージン』
箸を動かしてはいるが、彼の言葉通りその動きは遅々としていて元気が無い。
「すまん……まさか持ち込む物を間違えるとは……」
アホ毛が力無く垂れる人間の少年。ゴーグルの奥の瞳も申し訳なさに満ちている。剣を背負った少年の名前は『ソーソー』
最初こそ楽しげに写真を撮っていたのだが、箸が進むにつれてその元気は今の状態まで減じて来ていた。
その理由の一つが、本来持ち込もうとしていた物と取り違えてしまっていたと気付いた事だった。
「間違いは誰にでもあるぞな。そこから何を得るかが重要もし」
何とも特徴的な語り口でソーソーを励ますのは烏の様な鳥の頭を模した装備と漆黒のマントを身に包んだウェディの男性『フルート』
普段は漆黒の仮面とマスクで素顔まですっぽりと隠しているのだが、流石に食事の場で弁えたのか、今日この場ではマスクを外している。
男三人、緊張感無く自然体で食事を楽しむには悪く無い組み合わせだったのだが、五人揃っている机と比べると、今回ならではの問題が発生してしまう。
「……飽きたな……」
「ああ……」
「ぞな……」
再度マージンがぼやく。
それもその筈で今回事前に用意された鍋は揃っている事が前提の五人前として準備されていた。
しかし、この机に着席した冒険者は彼ら三人のみ。必然、鍋に入る具材も三種類のみ。
早い話、具材の種類が圧倒的に少なく、層の薄い鍋になってしまっていた。
そこに加えて、巡り合わせが悪い事にソーソーの持ち込んだ物は『人をダメにする水』
口に入れる具材では無い。勿論、料理酒として鍋の出汁に深みを与え、一段美味しくなってはいる。なってはいるのだが、これでは鍋ではなく唯のスープである。
「海苔だけを持ってくるのは失敗だったぞなもし」
レンゲでその服と同じ様に真っ黒に染まったスープを掬う。
フルートの持ち込んだ『海苔』はすっかりスープに溶けて、磯良い風味と香りを漂わせつつも、具材というにはやや物足りない。
「仕方ないだろ、それ言ったら俺の持ってきたコレだって味気無いって言えなくも無いしな」
マージンが口に放り込んだのは『コンバットレーション』
彼の自信作。栄養価を突き詰め勝ちな戦闘糧食でありながら味も満足行く出来栄えの物。
なのだが、具材が一品目のみだと飽きるのもやむなしだった。
「なーんかシケた空気だね!?」
海苔レーションの酒蒸し汁を消化していた三人の机に、騒々しくミャジとロスウィードの二人がやって来る。
毎度の事ながら自分達の役目を丁寧に説明するロスウィードの一方、ミャジは鍋の内容と冒険者達の様子を見て取り、ふむと思案を始める。
「そうか、この机は端数になってしまった三人なんだな」
「そう言う事。変わり映えしなくて写真の撮り甲斐もなくてさ」
どうしたものかと自身の写真機を振りながら語るソーソーに、ロスウィードも何と返すべきか困った様な笑みを浮かべていた。
「流石にコレはあんまりだしさ、調理場から何か持って来ない?」
主催した手前、二人としては参加者には楽しんで帰って貰いたい。その思いからミャジはハイと手を挙げる。
「とは言え、調理場にはそんなに物は残ってないぞ」「調味料くらいなら残ってるぞな?」
同意しつつも、食材等残っていたかと思案したロスウィードだったが、それにフルートが待ったをかける。
「何か考えがあるのか?」
立ち上がったフルートを見上げるマージンに対して、フルートはニヒルな笑みを浮かべる。
「それは、やってみてのお楽しみぞなもし」